広島大学では、「特に優れた研究を行う教授職(DP:Distinguished Professor)及び若手教員(DR:Distinguished Researcher)」の認定制度を2013年2月1日に創設しました。DPは重点的課題に取り組むべき研究を行う特に優れた教授職、DRは将来DPとして活躍しうる若手人材として、研究活動を行っています。
川上秀史教授インタビュー

难病础尝厂の原因遗伝子と発症メカニズムを突き止め
治疗法の开発につなげたい
「一番难しい病気」の研究に取り组む
私は筋萎缩性侧索硬化症(础尝厂)を中心に、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄小脳変性症といった、脳や脊髄の神経に変性が起こって発症する难病について、遗伝学的アプローチから原因と治疗法を见つけ出す研究を行っています。础尝厂は、発病すると徐々に全身の筋肉が麻痺して动かなくなり、最终的には自発呼吸すらできなくなって死に至るという恐ろしい病気です。パーキンソン病やアルツハイマー病については、30年ほど前にその原因物质のいくつかが解明されましたが、础尝厂については长い间、原因がほとんどわかっていませんでした。専门に进むとき、自分のやるべき研究は何かと考え、「どうせなら一番原因がわかっておらず、治疗法も确立していない病気に取り组もう」と思ったのが、础尝厂を研究の中心に据えた理由です。
现在、础尝厂の患者さんの约1割程度が「家族性」、すなわち遗伝的な要因で発症すると言われています。その患者さんの中でも原因遗伝子が特定できるのは、半分程度しかいません。私たちの研究グループが2010年に、日本人の患者さんから见つけた「オプチニューリン」という遗伝子は、これまでに见つかった础尝厂の主要な原因遗伝子の一つです。オプチニューリンはもともと、眼の病気である緑内障の原因遗伝子として知られています。オプチニューリンは、细胞内の狈贵-κ叠というシグナル伝达を抑制する机能を持っているのですが、遗伝子が変异すると、その抑制机能が失われることがわかりました。狈贵-κ叠は人体の炎症や発癌に関係していることが知られています。础尝厂の患者さんはオプチニューリンが机能を失うことで、狈贵-κ叠が过剰に活性化し、运动神経が影响を受けている可能性がわかったのです。その后オプチニューリンがオートファジーに関与することもわかり、ますますその重要性が増しています。私たちの研究チームが『狈补迟耻谤别』に発表した、これら研究内容をまとめた论文はこれまでに800回以上も引用されており、世界中の研究者たちがこの発见をもとにさまざまな研究を行っています。

オプチニューリンの神経性疾患への関与
第3世代シーケンサーでさらなる発见をめざす
私たちは现在、オプチニューリンという遗伝子がどのように础尝厂を発症させるのか、そのメカニズムの解明を目指した研究を进めています。础尝厂の患者さんに见つかった遗伝子の変异をマウスに导入し、同じように础尝厂を起こすか、起きた场合にどのような症状を示すか、観察を続けています。神経変性疾患という病気は、年齢をある程度重ねないと発症しません。2年程の寿命であるマウスも导入してすぐには発症しないため、数年がかりで検証を进めているところです。
私たちがオプチニューリンを见つけるための研究を行っていた2005年顷は、人の全ゲノムの解析が达成されて间もない时代です。そのため原因遗伝子を発见するのには非常に多くの时间と労力がかかりました。しかしこの10数年间で「次世代シーケンサー」と呼ばれる遗伝子を読み取る装置が急激に进歩し、状况は大きく変わっています。10年前の时点で一人の人间の遗伝子をすべて解析するのに10日间、费用は500万円ほどかかっていましたが、现在では约1日、10万円程度で済むようになりました。それにより次々に新しい础尝厂の原因遗伝子が発见されるようになっています。また现在の「第叁世代」と呼ばれるシーケンサーは、従来の製品に比べて圧倒的にゲノムの长い配列を読むことを得意としています。础尝厂のような神経疾患は、一定の塩基のリピートが200、300と繰り返される変异が起こったときに発症するという报告があり、第3世代シーケンサーの登场でその発症メカニズムがより深く解明できるのではと期待されています。私たちの研究グループも、2年ほど前から第3世代シーケンサーを使った研究をスタートしたところです。

「第3世代シーケンサー」と川上先生。「第3世代シーケンサー」が开発されたことで、これまで见えなかったゲノムの暗黒领域が明らかになりつつある。
世界中の研究者と竞いながら最先端の研究に取り组む
研究の最终的な目标は、なんといっても现在特効薬のない础尝厂の治疗につながる、画期的な治疗方法を见つけ出すことです。私たちがオプチニューリンを発见するまで、础尝厂と狈贵-κ叠と関係があるとは思われていませんでしたが、それがわかったことで「狈贵-κ叠を抑制する薬」は础尝厂治疗薬の候补となりました。これからも同様に、発症のメカニズムに基づいた治疗法の开発につながる研究を続けていきたいと思っています。
私たちが取り组んでいるような基础医学の研究は、常に世界中のライバルたちとの间で激しい竞争を行っています。他の国の研究者たちに负けずに、重要な発见をするために、学生たちに対しては「常に最先端の情报を取り入れながら、その时点でもっとも重要な问题に取り组みなさい」と伝えています。医学や生物学は急激に进歩を続けていますが、それと歩调を合わせて、取り组むべき研究、解决すべき课题も増え続けています。これからも研究室の仲间たちとともに、そうした难しい、しかしやりがいのあるチャレンジに取り组んでいきたいと思います。