
ミクロの世界の物理を考える量子力学の理论に関する研究。
未解决な问题が多く残る量子力学。测定问题などの命题に理论面から取り组む。

私は、物理学の中でも、量子力学や量子光学、量子情报処理、数理物理といった分野の研究者です。物理学というと皆さんは、ガリレイやニュートンなどによる、いわゆる「古典物理学」を思い浮かべるかもしれませんが、私の研究分野は、「现代物理学」と呼ばれる新しい物理学です。19世纪末顷から、それまでの物理学の理论では説明のつかない现象が多く発见されるようになり、20世纪初めに相対性理论や量子力学に代表される「现代物理学」が生まれました。
物质は分子、原子、原子核、素粒子などで构成されることが明らかになるとともに、ミクロな世界の物理现象を探求しようとする「量子力学」が开発されたのです。そして、今日まで多くの研究成果がもたらされ、より効率的なデータ処理を実现する量子コンピュータも生まれています。
その一方で、量子力学の多くの基本的な问题は未解决であり、満足のいく説明はなされていません。そこで、私たちの研究グループでは、量子论に基づいて最适に制御された量子系における测定と制御の限界を正确に探る研究をおこなっています。
まず量子论の歴史的経纬について简単に触れます。量子力学の不思议さは、歴史的には光の研究から见えてきました。それまでの物理学では、光は电磁波つまり波であり、マクスウェル方程式から説明できることが分かっていました。しかし光の研究を进めるうちに、光のエネルギーが离散的で、エネルギーの最小単位(プランク定数×振动数)を持つことも分かってきました。このことから光は光の粒(光子)の集団であるとの考えが広まりました。しかし物理学では波と粒子は完全に别のものと考えられています。つまり波は振动が伝わるだけで物体そのものは移动しませんが、粒子は物体の移动そのものを示します。そのため波と考えられていた光をどのように光子の集団と结びつけるのか、科学的な説明がなされないまま、计算に必要な数学的道具の整备が优先的に进められました。これが今の量子力学の体系になります。したがってそれらの道具を使って计算することは可能ですが、数学的な定义と演算が我々には直接见えないミクロ世界の物理的状况とどう対応するのか、未だに分かっていません。つまり数学的な道具をどのように物理的状况に适用するのか、本当のところは明らかにはなっていないのです。
このような量子力学の状况は、量子论が不完全だからではないか、という疑念を生み出します。実际、1935年にアインシュタイン、ポドルスキ―、ローゼン、は二つの粒子への崩壊の思考実験から、「不确定性原理」は成立しないと説明しました。彼らはその议论を元に、不确定性原理は単に我々の勘违いであり、量子论は不完全であると主张したのです。彼らが取り上げた物理系は、今では「量子もつれ状态」として知られている系です。量子论の不确定性は确率分布ではなく、得られる结果の可能性の重ね合わせを示すと考えられましたが、物理的理解を难しくする要因となっています。つまり重ね合わせ状态をどのように物理的に理解するのか、というのは量子力学を理解するための物理学での大きな问题だったのです。1935年の议论で、アインシュタインは重ね合わせ状态は确率分布のようなものであるという考えに基づき、确率的な不确定性を含まない、量子论よりも根本的な理论があるのではないかと主张しました(アインシュタインの量子论を批判する言叶として、「神はサイコロを振らない」という有名な言叶があります)。しかし我々は、未だにそう言った理论を见出していません。したがって、我々は重ね合わせ状态がどんな物理的状况を表しているのか、未だに説明できない状况にあるのです。
重ね合わせ状态の不思议さを説明した「シュレーディンガーの猫」という有名なパラドックスをご存知でしょうか?これは、ふたを开けるまで猫の状态は分からず、箱の中では、猫は生きた猫と死んだ猫が重ね合わせの状态にあると説明するものです。このように、量子力学では、観测するまで粒子はいろいろな状态の重ね合わせ状态にあると考え、まずは重ね合わせ状态を数式に书き下し、その状态を使って计算します。その计算结果は见事に実験结果を再现します。では皆さんは生きた猫と死んだ猫の重ね合わせ状态を想像できるでしょうか?しかし量子力学では、重ね合わせ状态は数学的に定义できるために、生きた猫の状态と死んだ猫の状态の重ね合わせ状态を数式で书き下し、计算することができてしまうのです。この両者は明らかに矛盾です。一方は我々の実体験から重ね合わせ状态は存在しないと思われるのに、もう一方は物理的実験を再现するために重ね合わせ状态が必要と述べているのです。古典物理学と量子力学が自然の一部分を説明するのであれば、両者は违っていても矛盾してはいけないはずです。「シュレディンガーの猫」にしても1935年のアインシュタインの主张もこの原则に基づいたものでした。「重ね合わせ状态」の问题は、量子论固有の问题というよりも自然を统一的に理解するために神様が与えてくれた问いなのかもしれません。
そしてもうひとつ、量子力学の根干を成す考え方のひとつに「不确定性原理」や「不确定性関係」があります。位置と运动量、时间とエネルギーのような、相补的な2つの物理量を同时に正确に决めることは不可能であり、それらは确率的に与えられるというのが「不确定性原理」です。そして、こうした物理量の组み合わせを「不确定性関係」と言います。2つの物理量の「不确定性」についての考え方は、量子の世界での测定问题や、アインシュタインが论じたように量子もつれ状态の非局所性(2つの粒子が离れていても量子もつれ状态を保つこと)の问题などにつながっています。
いずれも非常に理解しがたい不思议なものです。量子论の数学的な计算だけでは、现実を説明できません。そのため私たちはいまも、この未解决な问题に取り组んでいます。
数々の研究成果を世界へ。物理量の実在问题など未解决な问题に一石を投じる。
私が特に兴味があるのは「测定问题」です。その详细を、これまでの研究成果からご绍介しましょう。
前述したように、量子力学では、不确定性原理によって、相补的な関係にある2つの物理量は同时に正确な値が得られないとされています。しかも、ミクロの世界を扱うため、测定行為そのものが测定対象の初期の状态を乱してしまい、最初の状态での物理量を正确に知ることはできないと考えられています。つまり通常の量子测定では、物理量の値は得られず、値として存在していたかどうかも确认できないという未解决问题があります。これを踏まえて、私の研究グループでは、次のような研究成果を発表しました。
◆量子力学の不确定性原理における测定误差の相関の测定に成功(2018年12月)
私たちの研究グループ(※)は、光子の相补的な2种类の偏光の同时测定に関して、测定误差を生じさせる测定装置の间违いが両方とも起こるか、あるいはどちらか一方のみ起こるかの倾向の强さを表す量(测定误差の相関)の测定に世界で初めて成功しました。これは、それぞれの测定误差以外に、测定误差の相関が初めて実験的に评価され、古典物理学では説明できない関係が确认されたということです。この结果を相补的な物理量の统计的性质の解析に利用することで、相补的な関係にある2つの物理量の関係の解明につながると期待されました。
※先端物质科学研究科助教の饭沼昌隆先生や京都大学の先生方との共同研究

図1.二種類の偏光 x と y の同時測定の測定誤差とそれらの相関をもつれ合った光子対で評価する。
x と y の量子相関が負となる状態を用意すると、xy の量子相関は正となる。
◆量子力学における物理量の実在问题につながる测定法を开発(2021年2月)
前述の「测定误差の相関の测定」の成功を基に、私は、「物理量の実在问题」の解决に挑みました。そして、量子测定から得られた测定结果に対応する物理量の正确な値を得る方法を発见し、その値が弱値と一致することを理论解析から明らかにしました。
この研究では、図2のような测定系を考えました。まず、最大のコヒーレンスを持つ単一の量子ビットを用意し、量子システムと弱く结合させて、「量子もつれ」の状态をつくります。量子システムの测定后には、量子ビットは量子システムの测定の影响を受けて変化します。その変化した量子ビットに、得られた测定结果に対応するフィードバックを施します。
フィードバックが不适切な场合は、量子ビットの状态は元に戻りません。元に戻らなかった量子ビットの最初の状态からの変化は「デコヒーレンス」として现れ、その大きさは、「小泽の测定误差」と一致することが分かりました。小泽の测定误差は「物理量の真値と测定値との差」を意味するため、量子ビットを元に戻す适切なフィードバックが分かれば、デコヒーレンスをゼロにできます。量子力学ではフィードバックの量が物理量の値に対応するため、フィードバックで変化量を当てはめれば测定误差がゼロとなり、物理量の正确な値が得られることになります。理论解析の结果、物理量の正确な値は最初の状态と得られた测定结果の両方で决まる弱値と一致することが分かりました。このフィードバックによる当てはめは、図3に示した足と靴の関係と同様だと言えます。
※コヒーレンス:量子状态での重ね合わせの程度を表す量のこと
※デコヒーレンス:最初に持っていたコヒーレンスを损失すること、または损失した量のこと
※小泽の测定误差:2003年に小泽によって导入された测定误差

図2.物理量を得るための测定系

図3.フィードバックによる変化量への当てはめによって、物理量の値が定まる。
足の测定后、当てはめることで靴の実在をもたらすのと本质的には同じである
大事なのは原理の理解。そこから、社会问题の解决につながる科学技术が生まれる。
父も物理学者なので、私は子どもの顷から科学について学んでいました。特に物理を勉强したのは、深い思虑と実用性を结びつけるという考え方が好きだったからです。大学に入学した时、私は量子力学はもう十分わかったと思っていましたが、友だちはそうではないと反対しました。いまでは友だちが正しかったと思っています。大学では同じような兴味を持つ友人がたくさんいて、饱きることなく一绪に难问に立ち向かっていました。
日本语は大学の頃から勉強を始めました。父が日本と交流があったことと、文化の違いに惹かれたからです。大学卒業後は日本の理化学研究所などいろいろなところで量子力学に関連する実験などを仕事にしていました。その中のひとつ、ドイツ航空宇宙センターでは、半導体レーザーで起こり得る量子効果を調べる仕事をしていましたが、そこで私は、光の量子力学が、それまで学んできた量子力学とはまったく異なるものであることに気づきました。やがて、量子コヒーレンスの役割について、自分なりの考えを持つようになりました。
その后、北海道大学でポスドクとして过ごす间に、量子情报科学から生まれる新しい问题に研究の重点をどんどん移し、量子系の物性间の不确定性関係から直接、「もつれ」を评価する新しい方法の开発にも携わりました。
広岛大学にやってきたのは2004年です。その后、2010年には、同じ大学院の角屋豊教授などと一绪に、「ナノサイズの光のアンテナの开発」に成功しています。これは、テレビ电波受信用の八木宇田アンテナを光に応用したもので、强い指向性を持つ八木宇田アンテナから、放射について授业で教えるために考えました。発光は普通は、空间の中に広がって、光子を失ってしまう。そこで、空间の発光を集めるにはどうすればよいかを考えた结果、おもしろい成果が生まれました。
こうした私たちの研究は、世界中の科学者にとって非常に兴味深いものです。私は现在、世界各国の研究者が参加する国际的なネットワークにも积极的に参加し、日本の学生たちも、こうした国际的な议论に积极的に参加できるようお手伝いできればと思っています。
现代社会は、そのために费やされた努力を评価することなく、当たり前のようにさまざまな技术を利用してきました。量子论はこの危険な过信に挑戦しています。私たちを取り巻く「世界をコントロールする能力」には限界があることを理解する努力が必要です。そのためには、科学は数式やデータに基づいているのではなく、科学の原理に基づいていることを学ぶべきです。量子论の理解に数学は重要ですが、先端的な研究と技术を本当に理解している人は少ないと言えます。
量子论は、未解决の问题が多く、多くの异なる视点が存在する分野であるため、コミュニケーション能力と自立した思考に必要な分析能力を学ぶ良い机会となります。私たちの研究が、オープンな问题に対して建设的な议论を行うことが、いかに新しい、予想外の结果につながるかを示すことで、积极的な贡献ができることを期待しています。


教授
ホフマン ホルガ フリードリッヒ
量子光学物性研究室
1969年7月4日 ドイツ、シュトゥットガルトに生まれる
1989年~1994年 シュトゥットガルト大学 物理学科 在学
1994年 物理学修士号取得
1995年 理化学研究所(和光市)研究員
1996年~1999年 ドイツ航空宇宙センター顿尝搁(シュトゥットガルト)、物理学博士号取得
1999年 シュトゥットガルト大学より博士号(学術)取得
1999年~2001年 日本学术振兴会特别研究员(东京大学)
2001年~2004年 闯厂罢ポスドク(北海道大学)
2004年~2020年 広島大学 大学院先端物質科学研究科 准教授
2020年~ 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授
2020年09月 IOP trusted reviewer, IOP publishing, IOP trusted reviewer
2015年01月 APS Outstanding Referee, American Physical Society, Outstanding Referee
2015年06月 OSA Senior Membership, Optical Society of America, OSA Senior Member