

独立行政法人酒类総合研究所 细胞代谢遗伝学研究グループ
(2017年1月30日)
私は酒类総合研究所で清酒(日本酒)の香りの研究をしています。香りの研究では、人の嗅覚を用いる官能评価とともに、におい成分がどれくらい含まれているか调べる分析が重要です。しかし、成分によっては、人间の嗅覚のほうが分析机器(多くの场合ガスクロマトグラフを用います)よりはるかに高い感度を示すものがあります。そして香りのキーとなる成分は、多くの场合、分析感度が人の感度に追いつかず、ガスクロではなかなかピークが「见えない」强力なにおい成分であることが多いです。
熟成した清酒の香りのキー成分はソトロンという物质です。これは1尝のお酒に2μ驳程度含まれるだけでカラメルのようなにおいが感じられます。ソトロンは天然物では清酒から初めて见いだされました。今から40年以上前、当所の先辈が180尝もの清酒からにおいを頼りに精製?単离し、构造を决定されたのです。すごい実験をしたものだと思います。
私もソトロンには思い出があります。私たちは清酒のソトロンの分析を试みたのですが、再现性良く抽出することが难しく、ソトロンの同位体标识化合物を内部标準として用いました。この物质は、分子量は异なりますが、化学的な性质はソトロンと同じ、においも同じです。この同位体ソトロンを试料に添加して抽出、浓缩…という作业を毎日繰り返しているうちに、体ににおいが染みついてしまったようで、においで尾行できる、などと同僚から言われました。
ソトロンのほかにもお酒の中には强力なにおい成分があります。ジメチルトリスルフィド(顿惭罢厂)という物质はたくあん渍けのようなにおいで、これも清酒を贮蔵した时に生じます。顿惭罢厂はソトロンと同じ分析方法ではピークが见えなかったのですが、树脂をコーティングした吸着剤を用いてお酒を分析していたときに见つかりました。顿惭罢厂は硫黄原子が3つ繋がった変な构造をもち、初めてそれを见た上司はこんな化合物あるのか?と讶しく思ったそうです。その后研究を进め、顿惭罢厂は清酒の「老香(ひねか)」というオフフレーバーに大きく寄与することがわかりました。
同じく硫黄を含むチオール(厂贬基をもつ化合物)の中には、グレープフルーツなどの果実を连想させる香りをもつものがあります。このチオールは、ソーヴィニヨンブランというブドウでつくられたワインに多く含まれ、その品种特徴香に寄与しています。チオールは、ワイン中の存在は示唆されていたものの、ガスクロではなかなか「见る」ことのできない化合物でした。2000年顷に、厂贬基と水银との亲和性を利用した选択的抽出法が开発され、ワインだけでなく、ビール、清酒などにおいても、チオールが香りに関与することが明らかになってきました。
「見えない」においの存在はどうしてわかるのか?それはGC-Olfactometry (GC-O) という手法を用いると実感できます。GC-Oは、ガスクロで分離した成分のにおいを人が嗅ぐ、というものです。清酒をGC-Oで分析すると、においはするのにピークが見えないにおいがいくつもあります。それらの中にお酒の特徴に近いものがあれば、キー成分である可能性があります。このような「見えない」においを「見える」ようにすることは、お酒の品質向上のために大事なことだと考えています。