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第32回中岛田豊教授

第32回中島田教授「生物科学と生物工学の境界線(1)? 生物科学の憂鬱」

 生物系の研究といっても様々です。皆さんがイメージされるのは、生物の仕组みを知りたいという探求心からの研究(生物科学)、病気を治したい、世の中をもっと便利にしたいなど、実利的な目的をもった研究(生物工学)かと思います。しかし、実际には生命科学と生命工学は车の両轮で、どちらも必要なものです。今回は、生物科学の分野がいかに労力と时间がかかりそうなのか説明してみたいと思います。

 生物の仕组みを明らかにすることは、生命科学研究の最终的なゴールでしょう。生物の仕组みが完全に明らかになれば、生物はもはやロボットと同じ、人间が完全にコントロールできるし、壊れれば直せるものになります。设计図があればロボットの修理方法がわからないわけありませんよね。

 ただ、生物は现在の技术をもってしてもあまりに复雑です。人间の遗伝子の数は约23,000と言われています。これらの遗伝子から适切な器官、时间にタンパク质が作られて细胞の中で働きます。タンパク质は皮肤や髪の毛などの生物の骨格を形成するだけでなく、化学反応を触媒して様々な化合物(代谢产物)の合成?分解を助けます。これまでに报告されている生体内で作られる化合物の総数は、糖、脂质、アミノ酸、核酸などの细胞の构成成分を除いて、ヒトで3,000种、全生物では200,000种と言われています。

 生物の中では遗伝子から作られるタンパク质と、そのタンパク质により合成される化合物がごった煮のような状况でひしめき合いながら、粛々と生命活动を维持しています。しかも、その成分构成は、生物単位、细胞単位、组织単位、臓器単位、または时间単位、ヒトであれば食事状况、精神状态で変化します。生物系の研究者は、このような様々な単位、状况での生命现象を明らかにするために日々研究を进めています。

 では、いつごろ、生物の仕组みが完全に明らかになるのでしょうか?

 正直わかりません。

 まず、生物のもつ全情报に対して现在までに明らかにされた情报がまだまだ少なすぎるということです。生体内での遗伝子発现や代谢产物合成の制御方法について知らないことがあまりに多い。コンデンサーや抵抗を知っていても、アンプを作りたい场合は増幅回路、コンピュータを作りたい场合はロジック回路を知らないと电気回路は组めない。同じように、生体内の物质がわかっていても制御がわからないと、生物システムを知ったことにはなりません。生物とは、ブラックボックスが沢山あるコンピューターのようなものです。そこに装置(生物)はありますが、设计図と部品の机能は隠されていてわかりません。最近、一部の回路や部品の机能が明らかにされ、全体の部品リストも整备されてきました。しかし、まだまだブラックボックスはたくさんあります。

 そこで、ヒトであれば、约23,000の遗伝子、化合物で3000种、合计26,000の部品リストを见ながら、ある一つのブラックボックス内にどのような部品があるのかを探し、部品の机能が分からなければ调べ、部品の机能からどの部品とどの部品がつながるのかを推定する。そして実际につなげてみて、あるいは部品を一つ取り外して、推定したことが正しいかどうか确认する。この作业を部品全ての相互作用が明らかになるまで延々繰り返すことで、ブラックボックスのメカニズムを解明する方法论が、生命科学研究の主流として行われています。これを、いまだ未知の全てのブラックボックスに适用し、生命现象の制御メカニズム全てを知るためには、まだまだ膨大な実験が必要とされます。さらに、生物はヒトだけではなく微生物、植物いろいろです。それぞれが个别の机能をもっているので、生物ごとの研究が必要であり、これを今、一つ一つクリアしている訳です。

 やるべきことの多さに気が远くなりますか?

 やるべきことがまだまだ沢山あるとわくわくしますか?

 もっとうまく研究する方法があるだろうと思いますか?

 生物?生命系の研究は、大学では理学部、农学部、工学部、そして医学部で行われています。生物科学系の学部が、物理系、化学系、电気系、建筑系などと比较して圧倒的にたくさんあることには理由があるのです。

次回、このようにまだまだ未成熟で、だから面白い生物科学研究分野で、いかにして生物を活用?制御する技術を開発するのか、生物科学と生物工学の境界線(2)?? 生物工学の憂鬱としてお話したいと思います。

 


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