木村 真一(きむら しんいち)
自然科学研究機構?分子科学研究所?光物性測定器開発研究部門 准教授
Tel: 0564-55-7202
E-mail: kimura@ims.ac.jp
高畠 敏郎(たかばたけ としろう)
広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授
Tel: 082-424-7025
E-mail: takaba@hiroshima-u.ac.jp
(@は半角蔼に置き换えた上、送信してください。)
自然科学研究機構 分子科学研究所
国立大学法人広岛大学
2011年2月2日资料配布
報道解禁日時 2011年2月2日
资料配布先 冈崎市政记者会、文部科学省记者会、科学记者会、広岛大学関係报道机関
レアアースに磁性が生じる新たな仕组みを解明
自然科学研究机构分子科学研究所の木村真一准教授及び広岛大学の高畠敏郎教授らの研究グループは、分子科学研究所の极端紫外光研究施设(鲍痴厂翱搁-滨滨)のシンクロトロン光を用いて、希土类元素(いわゆるレアアース)に磁性が出现することに関する新たな仕组みを解明しました。研究グループは、鲍痴厂翱搁-滨滨において、1亿分の1から1万分の1メートルの波长领域について、セリウム化合物颁别翱蝉2Al10の电子状态に着目して分光学的に温度変化を详细に调べ、反强磁性(常磁性体の磁化率が絶対温度に逆比例するのに対して、ある温度以下になると逆に磁化率が减って行く性质)が出现する际の电子状态変化を明らかにしました。その结果、セリウム化合物颁别翱蝉2Al10の電子状態が結晶方向によって大きく異なることが磁性の発現に関係していることを発見しました。この成果は、希土類化合物が従来の理論では説明できない高い温度で磁性を示す仕組みを解明したものであり、ハイブリッド自動車の強力なモーターなどに利用される永久磁石や磁気スイッチのはたらきをする新たな磁性材料の開発に貢献するものと期待されます。本成果は、米国物理学会誌『Physical Review Letters』のオンライン版(2月8日付(米国東部時間))に掲載される予定です。
レアアースとも呼ばれる希土類元素(注1)を含む化合物は、特殊な性質のために、ディスプレイや照明などの蛍光材料をはじめ、ハイブリッド自動車の強力モーターなどに広く使われています。このような性質は、希土類元素の原子の周りの電子のうち“4f電子(注2)”の特徴によりもたらされるものです。電子は、それ自体が自転しており、この自転を“スピン”といいます(スピンの方向は通常、上または下向きの矢印で書き表します)。4f電子は原子核近くを周回しているために、隣同士の希土類原子に属する4f電子のスピンの向きを揃える直接的な相互作用は大変弱いものです。このため、スピンの向きを揃えるには、結晶全体にわたって自由に動き回れる伝導電子の助けが必要となります。伝導電子のスピンの向きを同一方向にそろえることによって、 4f電子のスピンが平行(同一の向き)あるいは反平行(反対の向き)に整列し、これによって強磁性(注3)や反強磁性(注4)が現れます(図1)。この効果はRKKY相互作用(注5)と呼ばれ、1950年代にはすでに理論が構築されていました。この理論によると、4f電子を1個しか持たないセリウム(Ce)化合物の磁性が出現する温度は、絶対温度(注6)で数ケルビン(-270 ℃程度)の極低温と予想されていました。一方で、4f電子同士を仲介する伝導電子に着目すると、局在する4f電子と混じり合うこと(混成)によって動きを妨げられるので、動きがのろくなったり、止まったりしまうこともあります。このことは一般に近藤効果(注7)と呼ばれており、伝導電子が止まってしまう状態は近藤半導体(注7)と呼ばれています。
そのような中で、セリウム化合物の颁别翱蝉2Al10は、29ケルビン(-244 ℃)で反強磁性となることが最近発見されました。RKKY相互作用から予想されるこの物質の磁気的性質が変化する磁気転移温度(注8)は1ケルビン以下ですので、理論予想に反して極めて高い温度で磁性が出現しています。そのため、その起源は既存の概念では説明できないことから、世界的に研究が進められてきました。
电子状态を知ることは、物质の磁性、伝导性、光の発光や吸収、分子の中での电荷の偏りなど物质の性质について有益な情报を与えてくれます。木村らの研究グループは、セリウム化合物颁别翱蝉2Al10の磁性が出现する仕组みを明らかにするために、この物质の电子状态に着目しました。
図2. 分子科学研究所極端紫外光研究施設のシンクロトロン光源
鲍痴厂翱搁-滨滨(ユーブイソールツー)。
一周约50尘の円形の加速器の周囲に合计16本の光取り出し部と実験装置が装着されている。
具体的には、広岛大学の高畠研究室で育成されたセリウム化合物颁别翱蝉2Al10の単结晶を用い、电子状态の温度変化を、分子科学研究所の极端紫外光研究施设(鲍痴厂翱搁-滨滨)のシンクロトロン光(注9、図2)を使って、テラヘルツ(注10)?赤外から真空紫外(注11)领域について偏光反射分光法(注12)により详细に调べ、反强磁性が出现する际の电子状态変化を明らかにしました。その结果、セリウム化合物颁别翱蝉2Al10の电子状态が方向によって大きく异なることが磁性の発现に関係していることを発见しました。
図3. セリウム化合物CeOs2Al10の结晶构造
図3に示すように、セリウム化合物颁别翱蝉2Al10の结晶构造はCeとOsを含むジグザグな2次元面(ac面)が面に垂直方向(b軸方向)に積み重なった構造をしています。このac面内の伝導電子は4f電子と強く混成を起こして近藤半導体になりますが、b軸方向では伝導電子の密度が周期的に変化すること(電荷密度波)によって伝導電子の空間分布が不均一性になることがわかりました。この伝導電子分布の不均一性は磁気転移温度の29ケルビンよりも高い39ケルビン付近からゆらぎとして現れ始め、磁気転移温度で完全な電荷密度波ができあがります。つまり、セリウム化合物CeOs2Al10ではこの电荷密度波の生成がもとになって高い温度での磁気転移を引き起こしていることを突き止めました(図4)。これは、希土类化合物が従来の搁碍碍驰相互作用の枠を超えた磁気転移现象を示す原因を世界で初めて実験的に示したものです。
搁碍碍驰相互作用の理论によると、希土类化合物は极低温でのみ磁性を示すと考えられてきましたが、今回の结果は、结晶构造が方向によって异なることが生み出した电荷の不均一性が、高い転移温度で磁気転移を引き起こす可能性があることを示しています。希土类元素は鉄やコバルトと化合物を作ると强い磁石になることが知られており、この性质がハイブリッド自动车の强力なモーターなどに実际に利用されています。今回见出した新しいメカニズムを用いることで、贵重なレアアースの割合を少なくしても永久磁石や磁気スイッチのはたらきをする新たな磁性材料が开発されるものと期待されます。
注1)希土類元素: 周期表3族に属する原子番号21のスカンジウム(Sc)、39のイットリウム(Y)及び原子番号57のランタン La から71のルテチウム Lu までの15元素(ランタノイド)からなるグループ。
注2)4f電子: 原子核に束縛されている電子は、エネルギーの低い順に1s、 2s、 2p、 3s、 3p、 3d、...という軌道に電子が配置され、ランタノイドに属する希土類元素では4f軌道に電子が入る。4f軌道には最大14個の電子が収容される。
注3)强磁性:外から加えた磁场の向きにきわめて强く磁化し、磁场を取り去っても残留磁化を残す性质。
注4)反强磁性:常磁性体(磁场の中に置くと磁场と同じ方向に磁化される性质を示す物质)の磁化率が絶対温度に逆比例するのに対して、ある温度以下になると逆に磁化率が减って行く性质。
注5)RKKY相互作用: 金属中の伝導電子のスピンを介して行われる局在スピン同士の相互作用。この相互作用を導出した4人の物理学者[M. A. Ruderman、 C. Kittel、 糟谷忠雄(東北大名誉教授)、 芳田奎(東大名誉教授)]の頭文字から、RKKY相互作用と命名された。
注6)絶対温度: 物質の熱振動が停止する温度を絶対零度(0ケルビン)として測定した温度で、-273.15℃。
注7)近藤効果: 磁性を持った極微量な不純物(普通磁性のある鉄原子など)がある金属では、温度を下げていくとある温度以下で電気抵抗が上昇に転じる現象。その物理的機構は1964年に電気試験所(当時。現在の産業技術総合研究所)の近藤淳博士が初めて理論的に解明したため、この名前が付いている。近藤効果によって生じた半導体を近藤半導体という。
注8)磁気転移:温度の変化に応じて、固体の磁性が常磁性から强磁性もしくは反强磁性へ、または逆に强磁性もしくは反强磁性から常磁性へと相転移すること。
注9)シンクロトロン光: 光の速度近くまで加速された電子が磁場の中で曲げられるときに放射される光。UVSOR-IIと同様のシンクロトロン光施設は、兵庫県のSPring-8をはじめとして国内に数ヶ所ある。
注10)テラヘルツ:周波数が10の12乗(1兆=テラ)ヘルツのこと。罢贬锄と书く。1テラヘルツは300マイクロメートル(10000分の3メートル)の波长に相当し、もっと波长の短い光と波长の长い电波の中间に位置している。
注11)真空紫外:紫外線の中でも波長の短い10–200 ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル) 付近の領域をいう。
注12)偏光反射分光法:物质に电场が特定の方向にのみ振动する光(偏光)を当ててその反射率のスペクトル(波长依存性)を测定する方法。偏光は,一部のサングラスやカメラの偏光フィルターにも使われている。
掲载誌 : Physical Review Letters(米国物理学会誌)
论文タイトル: Electronic-Structure-Driven Magnetic Ordering in a Kondo Semiconductor CeOs2Al10
(近藤半导体颁别翱蝉2Al10の电子状态変化によって引き起こされる
着者(全员) : Shin-ichi Kimura, Takuya Iizuka, Hidetoshi Miyazaki,
Akinori Irizawa, Yuji Muro, Toshiro Takabatake
&苍产蝉辫;掲载予定日 : 2011年2月8日(米国東部時間)オンライン版掲載予定
本研究は、自然科学研究机构分子科学研究所?木村グループ(木村真一准教授)と広岛大学大学院先端物质科学研究科?高畠研究室(高畠敏郎教授)の共同研究により行われました。
科学研究费补助金?基盘研究叠(课题番号22340107)「室温强磁性半导体を目指した酸化ユーロピウムの基础研究」、科学研究费补助金?新学术领域(课题番号20102004)「重い电子系の形成と秩序化」の一环として行われました。
木村 真一(きむら しんいち)
自然科学研究機構?分子科学研究所?光物性測定器開発研究部門 准教授
Tel: 0564-55-7202
E-mail: kimura@ims.ac.jp
高畠 敏郎(たかばたけ としろう)
広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授
Tel: 082-424-7025
E-mail: takaba@hiroshima-u.ac.jp
(@は半角蔼に置き换えた上、送信してください。)
自然科学研究机构分子科学研究所?広报室(寺内かえで)
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