平成27年12月15日
科学技术振兴机构(JST)
罢别濒:03-5214-8404(広报课)
大阪府立大学
罢别濒:072-254-9103(広报课)
広岛大学
罢别濒:082-424-3701(広报グループ)
放送大学
罢别濒:043-298-4200(広报课)
らせん结晶构造を持つ磁石のひねりの数を制御?検出に成功
~电子デバイスのメモリー密度の飞跃的な向上が期待~
本研究成果のポイント
- 现在使われている电子デバイスでは、「2进法」に基づいた情报処理を行っている。
- らせん状の结晶构造を持つ磁石でひねりの数を自在に変化させることで、1つの磁石に多数の情报を埋め込むことに成功した。
- 巨大な情报処理能力を持つ磁気メモリーや磁気センサーなどへの応用が期待される。
概 要
JST戦略的創造研究推進事業において、大阪府立大学 工学研究科の戸川 欣彦 准教授らは、キラル(対掌性)な磁石単結晶(注1)において、数十から数百もの多段階のらせんのひねり構造が現れ、それらを電気的に検出できることを発見しました。
従来の磁気メモリーや磁気センサーなどの磁石を用いた电子デバイス(注2)では、磁石の向きを利用して“0”と“1”の「2进法」に基づき电気的に情报処理を行っています。本研究では、キラルな结晶构造をもつ新しい磁石で、磁场の强さを変更すると、らせん构造のひねりの数を段阶的に1つずつ変えることができ、一つの磁石に多数の磁気情报を埋め込むことに成功しました。さらに、らせん构造がほぐれる様子を、电気信号の変化として検出することに成功し、これまでにない多进数情报を制御できる磁石を実现しました。このような「多进法」による情报処理が可能となれば、磁気メモリーや磁気センサーなどの电子デバイスの情报処理量やメモリー密度が大幅に向上する可能性があります。
本研究成果は、2015年12月17日(米国東部時間)にアメリカ物理学会誌「Physical Review B(Rapid Communication)」のオンライン速報版で公開されます。
本成果は、以下の事业?研究领域?研究课题によって得られました。
●戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究领域:「素材?デバイス?システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの创成」
研究総括:桜井 貴康 東京大学生産研究所 教授
研究课题名:カイラル磁気秩序を用いたスピン位相エレクトロニクスの创成
研 究 者:戸川 欣彦(大阪府立大学 准教授)
研究実施场所:大阪府立大学
研究期间:平成25年10月~平成29年3月
JSTはこの领域で、材料?电子デバイス?システム最适化の研究を连携?融合することにより、情报処理エネルギー効率の剧的な向上や新机能の実现を可能にする研究开発を进め、真に実用化しイノベーションにつなげる道筋を示していくことを目指しています。上记研究课题では、カイラル磁性体において固有に现れる“巨视的スピン位相秩序”を用い、スピン位相エレクトロニクスの创成に取り组んでおります。
研究の背景と経纬
现在の情报処理に使われている电子デバイスでは、磁気メモリーや磁気センサーなどの磁石が使われています。磁石を用いた电子デバイスはデバイス内にある2つの磁石の向き(平行配置と反平行配置)を“0”と“1”の2値化(2进数)された电気信号として情报処理を行います(図1)。今后ますます膨张すると予想されるビッグデータ(注3)社会に対応するには、従来の「2値动作(注4)」とは异なる革新的な电子デバイスの动作原理の开発が望まれています。
本研究グループは、物質の“キラリティ(対掌性)”を鍵として、キラルな結晶構造を持つ磁石単結晶に注目して研究を進めています。“キラリティ”とは、「左手-右手」や「左ねじ-右ねじ」のように、鏡の中では互いに映り合うが実際には重ね合わせることができない関係のことを言います。研究グループは2012年に片巻きらせん状に配列した磁気構造で、その周期が磁場に応じて変わり試料全体に渡って一様に現れる状態(キラル磁気ソリトン格子(注5))を世界で初めて見出しました(図2)。“キラル磁気ソリトン格子”は巨視的に位相のそろった磁気秩序とみなすことができ、さまざまな量子機能を持つと期待されています。アメリカ物理学会の解説雑誌Physicsにおいて“A New State of Matter(物質の新しい状態)”として紹介されるなど、国内外で“キラル磁気ソリトン格子”に関する研究開発に注目が集まっています。
研究の内容
研究グループは、“キラル磁気ソリトン格子”が示す“らせん构造のひねりの数”に着目し、キラル磁石の中には多数の磁気情报があるとみなすことができると考えました(図3)。この仮説を検証するために、キラルな磁石であるCrNb3S6単结晶を用いた微小な(マイクロメーター(マイクロは100万分の1))磁気电子デバイスを作製し、电気抵抗を计测し、その様子を电気的に検出しました(図4)。さらに、透过型电子顕微镜(注6)を用いた高空间分解能観察を行い“ひねりの数”が変化する様子を直接数え上げました(図5)。
その结果、微小な磁気电子デバイスには数十から数百もの磁気状态が形成されており、その磁気状态は磁场を用いて1つずつ多段阶に変えることができることを発见しました。さらに、それらの多段阶の磁気状态を多値的かつ离散的な电気信号の変化として検出できることを明らかにしました。具体的な研究内容は次の通りです。
【结晶合成】:化学気相输送法を用いて、高品质で数mm径のキラル磁石単结晶CrNb3S6を育成しました。
【デバイス作製】:微细加工技术を用いて、数十マイクロメートルサイズの微小単结晶デバイスを作製しました。
【电気计测】:精密电気计测を行い多値的で离散的な磁気抵抗の検出に成功しました。
【透过型电子顕微镜法を用いた直接観察】:共同研究を行っている英国グラスゴー大学で稼働する透过型电子顕微镜(日本电子社製ARM-200CF)を用いて、世界最高性能を夸るローレンツ电子顕微镜法(注7)による超高空间分解能観察を行いました。微小単结晶デバイスにおいて“キラル磁気ソリトン格子”が离散的に変化する振舞いを直接観察し、离散信号の発现机构である「ソリトン闭じ込め効果(注8)」を発见しました。
【理论研究】:ロシアウラル连邦大学との共同研究により、「ソリトン闭じ込め効果」の発现机构を理论的に解明しました。
物理的には、「ソリトン闭じ込め効果」や「电気的特性の离散化(量子化)効果」は“キラル磁気ソリトン格子”に特有のトポロジカルな性质(ソリトン数を数えることができる)やスピン位相が巨视的に揃った性质(コヒーレント状态)を反映して现れる稀有な物理现象です。このような効果が数十μm以上もの试料全体に渡って発现するのは大変兴味深いことです。
研究グループは、“キラリティ”というキーワードのもとに、計測や理論を専門とする物理学者と物質合成を専門とする化学者が国際的に連携する研究コンソーシアムを日本?英国?ロシア間に形成して研究活動を行っています。英国はグラスゴー大学物理天文学科、ロシアはウラル連邦大学自然科学研究所、日本は広岛大学キラル物性研究拠点がこのコンソーシアムの拠点機関となっています。国をまたがり、それぞれの専門知識?技術を結集させながら研究を進めることで本研究を達成することができました。このような研究活動はこれからの国際共同研究の在り方のロールモデルの一つになると考えられます。
今后の展开
キラル磁石単结晶を用いた磁気电子デバイスでは多値化された电気信号を扱うことができ、原理的に「多値的なデバイス动作」を可能にすると考えられます。このようなデバイスを配列化して集积すれば、情报処理量やメモリー密度の飞跃的向上が见込まれます。例えば、10段阶の状态を取扱えるデバイスを10ケ集积すれば1010の情报量を扱うことができ、情报処理量は従来の210とは桁违いに大きくなります。膨大な情报量を処理するビッグデータ时代に対応するには、デバイス动作原理の抜本的な発想の転换が必要であると言われています。キラル磁石単结晶を利用した「多値的なデバイス动作原理」はまだ基础研究の段阶にあります。动作条件やデバイス形状の最适化などその潜在能力を検証していくとともに、市场ニーズを踏まえその応用分野を开拓していくことは重要な研究开発课题です。研究グループは、キラル磁石単结晶に関する基盘学术を确立するため、実験研究と理论研究を両轮として研究开発を进めていきます。
付记
本研究は、広岛大学の井上克也教授や高阪勇輔特任助教や秋光純特任教授、放送大学の岸根順一郎教授らの研究グループと共同で行ったものです。また、英国グラスゴー大学のスティーブン マクヴィティ上級講師、ロバート スタンプス教授、および、ロシアウラル連邦大学のアレキサンダー オプティニコフ准教授らとの国際的な共同研究により得られた研究成果です。本研究成果の一部は、基盤研究S「化学制御Chiralityが拓く新しい磁性」、頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム「ナノ材料科学における国際的研究コアの形成」、研究拠点形成事業 先端研究拠点型「スピンキラリティを軸にした先端材料コンソーシアム」の支援を受けました。
参考図
図1.従来の磁気电子デバイスにおける情报処理の原理
磁気电子デバイス内に配置する2つの磁石の向きの配列を“0”と“1”の2値に対応させて「2进法」で情报処理を行っている。
図2.キラルな磁石CrNb3S6の结晶构造とキラル磁気ソリトン格子
キラルな磁石であるCrNb3S6単結晶では周期的ならせん磁気構造である“キラル磁気ソリトン格子”が結晶のc 軸方向に沿って現れる。その周期Lは、磁場を加えると、磁場を加えないゼロ磁場状態より徐々に大きくなる。
図3.キラル磁気ソリトン格子の磁场依存性の模式図
キラル磁気ソリトン格子の周期は磁场を加えると徐々に长くなるが、それにともなって“らせん构造のひねりの数”が変わる。例えば、黄色で涂った领域では最大で5ケのひねり(赤矢印)が数えられる。この场合、ひねりの数に応じて6値までの多値的状态を対応づけることができる。
図4.(左)微小CrNb3S6単结晶デバイス(右)电気信号(磁気抵抗)データ
数mmサイズのキラル磁石単结晶CrNb3S6から数十μmサイズの微细な试料を切り出し、电気特性计测用の微小単结晶デバイスを作製した。电子信号(磁気抵抗:抵抗の磁场依存性)がステップ状かつ多段阶に変化していることがわかる。磁気抵抗の変化量は最小ステップ(~26±7μΩ)の整数倍に离散化している。
図5.透过型电子顕微镜像法を用いたキラル磁気ソリトン格子の直接観察
(左)キラル磁気ソリトン格子のねじれの数(白线で図示)がある磁场で16ケから15ケに変化する様子が観察されている。试料は微小CrNb3S6単结晶デバイス。ゼロ磁场では20ケのねじれをもつ。(右)ねじれの数(正确には、ねじれの密度)の磁场依存性。20ケから0ケまで1つずつ多段阶で离散的に変化していることがわかる。
用语解説
注1)キラルな磁石単结晶
“キラリティ(対掌性)”を持つ磁性単结晶のこと。キラル结晶轴が単数の六方晶CrNb3S6やCsCuCl3、叁方晶YbNi3Al9、また、复数本のキラル结晶轴をもつ立方晶MiSiやFe1-xCoxSiなどが知られている。
注2)磁石を用いた电子デバイス
磁気テープやハードディスクドライブ(HDD)などの磁気メモリー、磁気ヘッドなどの磁気センサー、フィルターなどの磁気电子デバイスなどが知られている。最近では、电子が有する2つの特性(电荷とスピン)の両方を活用するスピンエレクトロニクス研究が注目を集めている。不挥発性などの优れた特性を持つ磁気电子デバイスへの期待は大きく、论理回路用の高速大容量メモリーや论理回路の研究开発が进められている。
注3)ビッグデータ
情报のデジタル化が进み情报処理技术が向上しているが、その反面、社会情势や自然现象を解析するためにより膨大な情报量を扱う重要性が认识されるようになっている。将来的には、従来技术では扱えきれない、极めて膨大な情报量が解析対象になると考えられる。ハードウェア?ソフトウェアの広范囲にわたるさまざまな技术革新が必要であると言われている。
注4)「2値动作」と「多値动作」
従来の电子デバイスでは、デバイス内に発生する电圧の大きさを“0”と“1”の2値化した状态とみなして、「2进法」にもとづき、电気的に情报処理を行っている。磁気电気デバイスでは、図1に示すように、2つの磁石の向きの配列を利用することが多い。一方、「多値动作」では多段阶の信号を利用して、「多进法」にもとづき情报処理を行う。
注5)キラル磁気ソリトン格子
キラル结晶轴が単数の(単轴性の)キラルな磁石では、磁石が片巻きのらせん状に配列したキラルならせん磁気秩序が现れる。特に、キラル结晶轴に垂直な方向へ加えた磁场中では、キラルらせん磁気秩序のねじれが周期的にほぐれ、“キラル磁気ソリトン格子”と呼ばれる非线形で周期的な磁気秩序が现れる。
注6)透过型电子顕微镜
电子线を用いた顕微镜のひとつ。高速に加速した电子线を薄片化した试料に照射し、试料を透过してくる电子线を用いて観察する。电子の波长は光の波长より十万倍短いため、电子顕微镜の空间分解能は光学顕微镜より格段に高い。原子构造や磁场分布、电场分布を観察することができる。
注7)ローレンツ电子顕微镜法
電子線を用いた観察方法のひとつ。電子が磁場中でローレンツ力を受けてその進行方向をわずかに変えることを利用して磁気構造を観察する。英国グラスゴー大学では1 nmの極めて高い空間分解能でローレンツ電子顕微鏡法観察を行うことができる。
注8)ソリトン闭じ込め効果
キラル磁石のサイズを小さく制限する、キラル磁気ソリトン格子の両端を固定するなどの効果を导入すると、その范囲にふくまれるらせん构造のねじれ(ソリトン)の総数が制限され、その変化が离散的になる。そのため、キラル磁気ソリトン格子に関连して発现する物理现象の离散化(量子化)が起きる。
论文タイトル
“Magnetic Soliton Confinement and Discretization Effects Arising from Macroscopic Coherence in a Chiral Spin Soliton Lattice”
(キラルスピン磁気ソリトン格子の巨视的コヒーレンスにより発现する磁気ソリトン闭じ込めおよび离散化効果)
问い合わせ先
<研究に関すること>
戸川 欣彦(とがわ よしひこ)
大阪府立大学 大学院工学研究科 電子物理工学分野 准教授
〒599-8570 大阪府堺市中区学園町1-2
罢别濒:072-254-8216、贵补虫:072-254-8216
E-mail: y-togawa*pe.osakafu-u.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)
井上 克也(いのうえ かつや)
広岛大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授
広岛大学 キラル物性研究拠点 拠点リーダー
〒739-8526 広島県東広島市鏡山1-3-1
罢别濒:0824-24-7416、贵补虫:0824-24-7416
E-mail: kxi*hiroshima-u.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)
岸根 順一朗(きしね じゅんいちろう)
放送大学 自然と環境コース 物質?エネルギー領域 教授
〒261-8586 千葉県千葉市美浜区若葉2-11
罢别濒:043-298-4186、贵补虫:043-298-4186
E-mail: kishine*ouj.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)
<JSTの事业に関すること>
鈴木 ソフィア沙織 (スズキ ソフィア サオリ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーション?グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
罢别濒:03-3512-3525、贵补虫:03-3222-2063
贰-尘补颈濒:辫谤别蝉迟辞*箩蝉迟.驳辞.箩辫(注:*は半角@に置き换えてください)
<报道担当>
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
罢别濒:03-5214-8404、贵补虫:03-5214-8432
贰-尘补颈濒:箩蝉迟办辞丑辞*箩蝉迟.驳辞.箩辫(注:*は半角@に置き换えてください)
公立大学法人 大阪府立大学
広報渉外部 広報課 広報グループ
皆藤 昌利 主査(広報総括)
贰-尘补颈濒:蝉丑辞谤颈.办补颈迟辞*补辞.辞蝉补办补蹿耻-耻.补肠.箩辫(注:*は半角@に置き换えてください)
玉城 舞
贰-尘补颈濒:尘.迟补尘补办颈*补辞.辞蝉补办补蹿耻-耻.补肠.箩辫(注:*は半角@に置き换えてください)
罢贰尝:072-254-9103、贵础齿:072-254-9129
広岛大学
学术?社会产学连携室広报グループ
三戸 里美 主査
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)
罢贰尝:082-424-3701、贵础齿:082-424-6040
放送大学
総务部広报课
座間 直樹
贰-尘补颈濒:苍-锄补尘补*辞耻箩.补肠.箩辫(注:*は半角@に置き换えてください)
罢贰尝:043-298-4200、贵础齿:043-297-2781