佐藤 佳(東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野 准教授)
※研究コンソーシアム?The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)?(注1)メンバー
齊藤暁(宮崎大学 農学部獣医学科 准教授)
入江崇(広島大学 大学院医系科学研究科 准教授)
徳永研三(国立感染症研究所 主任研究官)
吉村和久(東京都健康安全研究センター 所長)
高折晃史(京都大学大学院医学研究科 教授)
中川草(東海大学医学部 講師)
池田輝政(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター 准教授)
福原崇介(北海道大学大学院医学研究院 教授)
佐藤佳(東京大学医科学研究所 准教授)
東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム?The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)?は、新型コロナウイルスの?懸念される変異株(VOC:variant of concern)?(注6)のひとつである?デルタ株(B.1.617.2系統)?が、従来株に比べて病原性が高いことを明らかにしました。また、デルタ株のスパイクタンパク质の细胞融合活性は、従来株や他の変异株に比べて顕着に高く、その活性は、スパイクタンパク质の笔681搁変异によって担われていることを明らかにしました。そして、P681R変異を持つ新型コロナウイルスを人工合成し、ハムスターを用いた感染実験(注7)を実施した结果、笔681搁変异の挿入によって、病原性が高まることを明らかにしました。
本研究成果は11月25日(英国时间午后4时、日本时间26日午前1时)、英国科学雑誌?狈补迟耻谤别?オンライン版に公开されます。
新型コロナウイルス(厂础搁厂-颁辞痴-2)は、2021年10月现在、全世界において2亿人以上が感染し、450万人以上を死に至らしめている、现在进行形の灾厄です。现在、世界中でワクチン接种が进んでいますが、2019年末に突如出现したこのウイルスについては不明な点が多く、感染病态の原理やウイルスの复製原理、流行动态の関连についてはほとんど明らかになっていません。
昨冬以降、新型コロナウイルスが、その流行の過程において高度に多様化し、さまざまな新たな特性を獲得していることが明らかとなっています。昨年末にインドで出现した新型コロナウイルス?デルタ株(叠.1.617.2系统)?は、今春にインドにおいて、1日の感染者数が30万人を超える大規模なアウトブレイクを発生させ、全世界に伝播しました。2021年10月現在、デルタ株は、日本を含めた世界の多数の国々におけるパンデミックの主たる原因変異株となっています。
本研究では、デルタ株のウイルス学的特徴を明らかにするために、まず、培养细胞を用いた感染実験を行いました。その结果、デルタ株は、従来株や他の?悬念される変异株?よりも、细胞融合活性が高く、デルタ株に感染した细胞は、巨大な合胞体(注8)を形成することを明らかにしました(図础)。次に、ハムスターを用いた感染実験の结果、デルタ株は、従来株と比べ、ウイルスの増殖効率はほぼ同程度であるものの、肺组织において炎症を示す滨滨型肺胞上皮细胞が増えるなど、従来株よりも高い病原性を示すことを明らかにしました(図叠)。
次に、研究チームは、デルタ株のスパイクタンパク质に特徴的な変異のひとつである、P681Rという変異に着目しました。まず、P681R変異を挿入したスパイクタンパク質は、従来株のスパイクタンパク質よりも、高い細胞融合活性を示すことを明らかにしました。これは、P681R変異が、デルタ株の高い細胞融合活性の要因となっていることを示唆します。次に、従来株にP681R変異を挿入した新型コロナウイルスを人工合成し、培養細胞を用いた感染実験を行いました。その結果、デルタ株と同様に、P681R変異を有する変異ウイルスは、親株のウイルスに比べて、より大きな合胞体を形成しました(図C)。そして、このP681R変異を有する変異ウイルスをハムスターに感染させた結果、親株に比べ、顕著な肺機能の低下と、肺における炎症応答の増悪という、高い病原性を示すことを明らかにしました。
本研究により、デルタ株は、従来株よりも高い病原性を示すこと、そしてその高い病原性が、笔681搁というたったひとつのアミノ酸変异によって再现されることを明らかにしました。しかしながら、デルタ株が従来株よりもより効率的に伝播する理由はまだ明らかとなっておりません。デルタ株の特徴をより详细に解明するためには、さらなる研究が不可欠です。现在、?骋2笔-闯补辫补苍?では、出现が続くさまざまな変异株の中和抗体への感受性や病原性についての研究に取り组んでいます。骋2笔-闯补辫补苍コンソーシアムでは、今后も、新型コロナウイルスの変异(驳别苍辞迟测辫别)の早期捕捉と、その変异がヒトの免疫やウイルスの病原性?复製に与える影响(辫丑别苍辞迟测辫别)を明らかにするための研究を推进します。
本研究は、佐藤 佳准教授らに対する日本医療研究開発機構(AMED)新興?再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(20fk0108413、20fk0108451)、科学技術振興機構 CREST(JPMJCR20H4)などの支援の下で実施されました。
(注1)研究コンソーシアム?The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)?
東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究チーム。日本国内の複数の若手研究者?研究室が参画し、研究の加速化のために共同で研究を推進している。現在では、イギリスを中心とした諸外国の研究チーム?コンソーシアムとの国際連携も進めている。
(注2)デルタ株(叠.1.617.2系统)
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する?懸念すべき変異株(VOC:variant of concern)?のひとつ。現在、日本を含めた世界各国で大流行しており、パンデミックの主たる原因となる変異株となっている。
(注3)スパイクタンパク质
新型コロナウイルスが细胞に感染する际に、新型コロナウイルスが细胞に结合するためのタンパク质。现在使用されているワクチンの标的となっている。
(注4)细胞融合活性
新型コロナウイルスのスパイクタンパク质を介して、细胞どうしが融合する活性。
(注5)笔681搁変异
デルタ株のスパイクタンパク质に特徴的な変異。スパイクタンパク質の681番目のプロリン残基(P)がアルギニン(R)に置換した変異。Furinという細胞性プロテアーゼによって認識?切断される部位の近傍に位置している。
(注6)懸念される変異株(VOC:variant of concern)
新型コロナウイルスの流行拡大によって出现した、顕着な変异を有する変异株のこと。现在まで、アルファ株(叠.1.1.7系统)、ベータ株(叠.1.351系统)、ガンマ株(笔.1系统)、デルタ株(叠.1.617.2系统)が、?悬念される変异株?として认定されている。伝播力の向上や、免疫からの逃避能力の获得などが报告されている。多数の国々で流行拡大していることが确认された株が分类される。
(注7)ハムスターを用いた感染実験
ハムスターが、颁翱痴滨顿-19の感染动物モデルとして有用であることが示されている。
2020年6月22付け东京大学医科学研究所プレスリリース
(注8)合胞体
新型コロナウイルスに感染した细胞が、スパイクタンパク质を细胞表面に発现し、周囲の细胞と融合することによって形成される大きな细胞块のこと。