広島大学大学院统合生命科学研究科 生物工学プログラム
健康長寿学研究室 教授 水沼 正樹
罢别濒:082-424-7765 贵础齿:082-424-7765
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(注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
- 线虫※1は热ショック転写因子※2の机能欠损により、低温环境(9℃)でこれまで知られていなかった休眠※3状态に移行する事を発见し、『低温休眠』と命名(図1)&苍产蝉辫;
- 低温休眠の制御に関わる遗伝子および神経回路の同定に成功(図2)&苍产蝉辫;
- 低温休眠を利用した长寿変异株を単离する実験手法を开発(図3)

図1:低温休眠现象の概要図
线虫はhsf-1机能欠损により低温(9℃)で孵化直后に成长を停止し、休眠状态へ移行する(低温休眠)。低温休眠は通常の饲育温度(20℃)で解除され、成长を再开する。
概要
広島大学大学院统合生命科学研究科の堀川誠 研究員、水沼正樹 教授の研究グループと、東京大学大学院薬学系研究科の福山征光 講師、マックス?プランク研究所(ドイツ)のAdam Antebi教授らのグループは、モデル生物の线虫(Caenorhabditis elegans)※1において热ショック応答に関わるhsf-1遺伝子の機能欠損により低温環境(9 ℃)で未知の休眠※3状态が形成される事を発见し、『低温休眠』と命名しました。そして、遗伝学的解析により低温休眠制御に関わる神経回路および遗伝子を复数同定する事に成功しました(図2)。また、低温休眠は既知の长寿遗伝子※4による制御を受けている事も発见し、その知见に基づいて新しい长寿変异株を単离する実験手法を开発、実証実験により复数の长寿変异株の获得に成功しました(図3)。
低温休眠は生物の低温応答?低温适応を调べるための新しい研究基盘として利用できる事が期待され、昆虫の越冬状态や恒温动物の冬眠など高等动物の休眠研究への応用も期待されます。また、低温休眠は长寿変异株の探索にも応用できる事から、新规の寿命制御遗伝子?寿命制御メカニズムの探索?解明や抗加齢创薬など抗加齢研究への応用も期待されます。
本研究成果は、国際学術雑誌?Nature Communications?に7月10日付でオンライン掲載されました。
背景
生物は成长や生殖、个体の生存が难しい环境条件(高温?低温?乾燥?贫栄养など)では成长や个体の活动を一时的に低下?停止させた休眠状态に移行し、环境が回復するまで耐久する生存戦略をとる事が知られています。クマなど、低温环境における恒温动物の冬眠が良く知られている现象です。
これまでの研究により、线虫(Caenorhabditis elegans)の幼虫は飢餓状態や高温環境で成長を停止して休眠する事が明らかになっています。興味深い事に、休眠状態の线虫では加齢の進行も停止する事が分かっています。さらに、既知の线虫の休眠現象にはインスリンシグナルなどの寿命制御メカニズムが関わっており、休眠研究で得られた知見は寿命制御メカニズムの解明においても重要な役割を果たしてきました。一方、线虫では昆虫や脊椎動物でみられるような低温環境での休眠現象(越冬?冬眠)に関する報告はなく、线虫には低温で誘導される休眠現象がないと考えられていました。
研究成果の内容
我々のグループは温度が寿命に与える影響に着目した研究を行ってきており、複数の线虫の热ショックタンパク质※5が低温環境でも寿命制御に関与する事をあきらかにしていました (堀川ら, 2015年, PLOS Genetics)。そこで、低温環境における热ショックタンパク质の役割をより深く探究した結果、热ショックタンパク质の発現を制御するhsf-1遺伝子(Heat shock transcription factor:热ショック転写因子※2)の機能欠損により孵化直後の线虫の幼虫が低温環境(9℃)で休眠状態に移行する事を発見しました。この休眠状態の线虫は野生株の平均寿命(20℃で約20日)より長い期間生存可能であり、さらに通常の飼育温度(20℃)に戻す事で成長を再開するという全く新しい休眠状態である事が分かったため、この新しい休眠現象を『低温休眠』と命名しました(図1)。
次に我々は、低温休眠現象の制御メカニズムを調べる事で线虫の低温応答?低温適応メカニズムが解明できると考え、さらなる解析を進めた結果、これまで低温応答?低温適応への関与が知られていなかった神経回路が低温休眠の制御に関わっている事を明らかにし、機能未知の新規遺伝子rcd-1(Regulator of cold-inducible diapause 1)をはじめとした複数の遺伝子を低温休眠の制御遺伝子として同定しました(図2)。
また、hsf-1遺伝子の機能欠損株は短寿命である事から长寿遗伝子の導入により寿命を回復させた際に低温休眠の表現型がどう変わるか試したところ、低温休眠の誘導が长寿遗伝子導入により抑制される事を発見しました。この事より低温休眠現象は抗加齢研究にも応用可能であると予想されたため、低温休眠を利用した長寿変異株の遗伝学的スクリーニング※6手法を考案し、実証実験により复数の长寿変异株の単离に成功しました(図3)。
今后の展开
今後は、我々が開発した遗伝学的スクリーニング手法で得られた長寿変異株を中心に低温休眠制御遺伝子のさらなる同定を進め、飢餓応答的?高温誘導的な既知の休眠現象との比較解析などにより、低温休眠の制御メカニズムの全体像とその特異性を明らかにする事、および温度と寿命制御の相互作用を明らかにする事を目指します。线虫の低温休眠研究で得られた知見は、昆虫や脊椎動物などの高等動物における越冬?冬眠現象の理解に貢献する事も期待されます。
研究费
本研究は、日本学術振興会?文部科学省科研費基盤研究(C)(JP22K06596) (堀川誠)、基盤研究(B)(JP22H02260)(水沼正樹)、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「全ライフコースを対象とした個体の機能低下機構の解明」研究開発領域における研究開発課題「S-アデノシルメチオニン(SAM)代謝が関与する寿命延長メカニズムの解明(研究開発者:水沼正樹)(21gm6110029h0004)」、「アミノ酸応答異常による個体の機能低下機構の解明(研究開発者:福山征光)(21gm6110017h0004) 」、「内藤記念科学振興財団、小柳財団 (堀川誠)」、「高木俊介パン科学技術振興財団、白石科学振興会(水沼正樹)」、広島大学自然科学研究支援開発センター(N-BARD)および広島大学の支援を受け実施したものです。
论文情报
- 論文タイトル:Regulatory mechanism of cold-inducible diapause in Caenorhabditis elegans
- 著者名:堀川 誠1,*, 福山 征光2, Adam Antebi3, 水沼 正樹1,4,*
1. 広島大学大学院统合生命科学研究科
2.&苍产蝉辫;东京大学大学院薬学系研究科
3.&苍产蝉辫;マックス?プランク研究所
4.&苍产蝉辫;広岛大学健康长寿研究拠点(贬颈贬础)
※责任着者 - 掲載誌:Nature Communications
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用语解説
※1 线虫(Caenorhabditis elegans):発生学や抗加齢研究の分野で幅広く利用されている線形動物のモデル生物。ミミズのような形態で体長は約1mm。標準的な実験環境でのライフサイクルは約3日、平均寿命は約20日。
※2 热ショック転写因子:HSF1(Heat shock transcription factor)。热ショックタンパク质の発現などを制御する熱ショック応答の中枢的制御因子のひとつ。
※3 休眠:生物の环境适応戦略の一种で、栄养不足や环境温度の低下、乾燥など生存に适さない环境条件で个体の活动や成长を抑制?停止し、环境条件が回復するまで耐久する状态。
※4 长寿遗伝子:遺伝子導入により個体の老化を抑制し、寿命延長が可能な遺伝子。线虫から哺乳類まで進化的に保存されたインスリンシグナル経路の転写因子FoxO(线虫遺伝子名:daf-16)などが有名。
※5 热ショックタンパク质:HSP(Heat shock protein)。タンパク質の折り畳みを制御するタンパク質で、熱ショック時のタンパク質変性を抑制する事で個体生存に寄与する。
※6 遗伝学的スクリーニング:薬剤や放射線処理などによりランダム遺伝子変異を誘導し、特定の表現型を持つ変異株を選別する手法。寿命変異株のスクリーニングでは長期的な解析が必要となる寿命そのものではなく、ストレス耐性や休眠など寿命と相関性が高い表現型を利用して変異株が選別される。
参考资料

図2:低温休眠の制御メカニズム
hsf-1机能欠损株において、特定の神経回路や特定の遗伝子の働きにより通常の成长が阻害され、低温休眠が诱导されます。一方、インスリンシグナル転写因子daf-16などの长寿遗伝子は、低温休眠の誘導を阻害して通常成長を促します。

図3:低温休眠を利用した长寿変异株スクリーニングの概要図
遗伝子変异により低温休眠诱导が抑制された変异株を选択的に回収する事で、长寿変异株が高确率で得られます。