2015年11月16日
冲縄科学技术大学院大学
広岛大学
私たちの远い祖先の谜が明らかに!
― ギボシムシのゲノムから考察する新口動物の起源 ―
この度、冲縄科学技术大学院大学(OIST)、広岛大学をはじめとする日米を中心とした研究チームが2種類のギボシムシのゲノムを解読することに世界で初めて成功しました。その結果、今からおよそ5億4千万年以上前まで遡るヒトの祖先の進化に、咽頭部の器官形成能力の獲得が大きな役割を担ってきたことが明らかになりました。本研究成果は2015年11月18日号の英科学誌ネイチャーに掲載されます。
ギボシムシとは
ギボシムシは海底の砂泥の中で生活する無脊椎動物で、浅い海から深海にまで分布しています。和名の由来は、吻(ふん)とよばれる体の前端部分の形状が、寺や橋の欄干に使われる擬宝珠(ぎぼし)に似ていることからきています。英語では通称ドングリ虫(acorn worm)とよばれ、これも吻の形状からきています。ギボシムシの体全体は細長く、吻につづいて、襟部、体幹部と3領域から構成されています。体幹部の前半分に鰓(えら)が開いていて、分類名の腸(ちょう)鰓類(さいるい)はこの大きく目立つ鰓部に由来します。ギボシムシは前端部の近くにある口から砂を食べ、鰓の部分で海水をろ過し、後端部の近くにある肛門から砂を排出します。海水浴などの際に多くの人が目にふれているのは、ギボシムシが排泄した砂が積もった糞塊です。体全体を覆う大量の粘液は鰓においてろ過に働くほか、砂の中の細菌からの防御の役割も果たすと考えられており、この粘液は臭化化合物を含むため、ギボシムシの多くは特殊な臭いを発します。
ギボシムシのゲノム解読
本研究では、主として太平洋に棲息するヒメギボシムシ(Ptychodera flava)(写真1)と、主に大西洋に棲息するクビナガギボシムシ(Saccoglossus kowalevskii)(写真2)の2種のギボシムシのゲノムを解読し、他の生物と比較解析しました。ヒメギボシムシのゲノム解読にはOISTの次世代型シーケンサーを駆使しました。そして、半索動物では世界で初めてゲノム解読に成功したことになります。
その結果、ギボシムシのゲノムには、Nkx2.1, Nkx2.2, Pax1/9, FoxAという4つの転写因子を作りだす遺伝子が1つのクラスターを作って保存されていることが分かりました。しかも、これら4つの遺伝子はすべて鰓形成部境界を特徴づける発現を示しており、FoxAは、鰓部のみを除いて発現し、他の3つは鰓部のみで発現します。この遺伝子クラスターは旧口動物ではその存在が認められませんでした。
よって、これらの遗伝子群は、新口动物の祖先において生じ、形态的に际立った咽头部(鳃部)の形成を制御する役割を担ってきたことが示唆されました。そこで、そのゲノム领域を「咽头部形成遗伝子クラスター」と呼ぶことにしました。
新口动物特有の遗伝子
さらに本研究では、鰓裂の獲得と同時に、新口動物の祖先が獲得した、新口動物に特異的な遺伝子について調べました。これには2 種のギボシムシを含む11 種の新口動物にくわえ、2種のギボシムシを含む11種の新口動物を入れて、34種の動物のデータを用いました。
その結果、新口動物に共通する遺伝子として9000 弱の遺伝子群が同定されました。ヒトの手や鳥の羽、猫の足、イルカのヒレなどは形も機能も違いますが、発生上の起源は同じで、形態学的には相同関係にあるといいます。形態学と同様に、遺伝子が相同であるかどうかを、共通の祖先に由来するかどうかで調べることができます。
今回の解析で、ヒトのゲノムにはこれら9000 弱の遺伝子群と相同性を示す遺伝子が少なくとも14,000存在することが明らかになりました。このことはつまり、ヒトはゲノムのおよそ70パーセントの遺伝子を新口動物の祖先と共有していることになります。9000弱の遺伝子群のうち、369は他の動物のゲノムには存在しません。
この中から31 の遺伝子群について新口動物を進化的に特徴づける遺伝子の候補とした結果、新口動物はろ過摂食に必要な繊毛および粘液の進化も進んだことが示唆されました。
つまり、新口动物の祖先はおそらく现生のギボシムシに似た生物で、繊毛、鳃裂、粘液を持ち、ろ过摂食に适した环境に栖息していたと考えられます。ギボシムシにおいては现生の生物においてもなお粘液と繊毛を利用したろ过摂食を行い、粘液に関连するタンパク质の多様化が続いていることも示唆されました。
※1 新口動物と旧口動物
动物は体づくりの初期过程で原肠(消化管の原基)を作る际に、原口から细胞が陥入していきますが、この原口が消化管の口になり后で肛门を开く动物と、原口が肛门になり后で口を开く动物がいます。前者を旧口动物(または前口动物)、后者を新口动物(または后口动物)と呼びます。旧口动物には、プラナリア、ミミズ、软体动物、昆虫などが含まれます。新口动物には、棘皮动物(ウニやヒトデなど)、半索动物(ギボシムシやフサカツギなど)、脊索动物(ヒトやナメクジウオ、ホヤなど)が含まれます。
※2 カンブリア爆発
化石記録の調査により、今からおよそ5億4千万年前の先カンブリア紀の終わりの地層から、現生の動物につながる生物化石がいっせいに出現することが知られている。この時期の動物の急速な放散を爆発にみたてて、「カンブリア紀の爆発(Cambrian Explosion)と呼ぶ。
発表先および発表日:狈补迟耻谤别(ネイチャー)
电子版:2015年11月18日(水曜日)18時00分 (英国ロンドン時間)
论文タイトル:Hemichordate genomes and deuterostome origins(ギボシムシのゲノムと新口動物の起源)
DOI: 10.1038/nature16150
着者:Oleg Simakov[1,19]*, Takeshi Kawashima[2]*, Ferdinand Marlétaz[3], Jerry Jenkins[4], Ryo Koyanagi[5], Therese Mitros[6], Kanako Hisata[2], Jessen Bredeson[6], Eiichi Shoguchi[2], Fuki Gyoja[2], Jia-Xing Yue[7], Yi-Chih Chen[15], Robert M Freeman Jr[8]+, Akane Sasaki[9], Tomoe Hikosaka-Katayama[10], Atsuko Sato[11], Manabu Fujie [5], Kenneth W. Baughman [2], Judith Levine [12], Paul Gonzalez[12], Christopher Cameron [18], Jens Fritzenwanker [12], Ariel M. Pani [20], Hiroki Goto [5], Miyuki Kanda [5], Nana Arakaki [5], Shinichi Yamasaki [5], Jiaxin Qu [13], Andrew Cree [13], Yan Ding [13], Huyen H. Dinh [13], Shannon Dugan [13], Michael Holder [13], Shalini N. Jhangiani [13], Christie L. Kovar [13], Sandra L. Lee [13], Lora R. Lewis [13], Donna Morton [13], Lynne V. Nazareth [13], Geoffrey Okwuonu [13], Jireh Santibanez [13], Rui Chen [13], Stephen Richards [13], Donna M. Muzny [13], Andrew Gillis [21], Leonid Peshkin[8], Michael Wu[6], Tom Humphreys[14], Yi-Hsien Su[15], Nicholas Putnam[7]$, Jeremy Schmutz[4], Asao Fujiyama[17], Jr-Kai Yu[15], Kunifumi Tagawa[9], Kim C Worley[13], Richard A. Gibbs [13], Marc W. Kirschner[8], Christopher J Lowe[12], Noriyuki Satoh[2]#, Daniel S Rokhsar[1,6,16], John Gerhart[6]
[1] Molecular Genetics Unit, Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, Onna, Okinawa 904-0495, Japan
2 Marine Genomics Unit, Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, Onna, Okinawa 904-0495, Japan
3 Department of Zoology, University of Oxford, Oxford, United Kingdom
4 HudsonAlpha Institute of Biotechnology, Huntsville, Alabama, USA
5 DNA Sequencing Section, Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University, Onna, Okinawa 904-0495, Japan
6 Department of Molecular and Cell Biology, University of California, Berkeley California USA
7 Department of Ecology and Evolutionary Biology, Rice University, Houston 77005, Texas, USA
8 Department of Systems Biology, Harvard Medical School, Boston, Massachusetts
9 Marine Biological Laboratory, Graduate School of Science, 麻豆AV, Onomichi, Hiroshima, Japan
10 Natural Science Center for Basic Research and Development Center for Gene Science, Hiroshima Uiversity, Higashi-Hiroshima, Hiroshima 739-8527, Japan
11 Marine Biological Association of the UK, The Laboratory, Citadel Hill, Plymouth, PL1 2PB UK
12 Department of Biology, Hopkins Marine Station, Stanford University, Pacific Grove, California
13 Human Genome Sequencing Center, Department of Molecular and Human Genetics, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, MS BCM226, Houston, TX 77030
14 Institute for Biogenesis Research, University of Hawaii, HI 96822, USA
15 Institute of Cellular and Organismic Biology, Academia Sinica, Taipei, Taiwan
16 US Department of Energy Joint Genome Institute, Walnut Creek, CA, USA
17 National Institute of Genetics, Mishima, Shizuoka 411-8540, Japan
18 Départment de sciences biologiques, University of Montreal, Canada
19 Department of Molecular Evolution, Centre for Organismal Studies, University of Heidelberg, Germany
20 University of North Caroline at Chapel Hill, NC, USA
21 Department of Zoology, University of Cambridge, Cambridge, United Kingdom
*contributed equally
$ current address: Dovetail Genomics, Santa Cruz, California, USA
current address: University of Tsukuba, Tsukuba, Ibaraki 305-572, Japan
+ current address: FAS Research Computing, Harvard University, Cambridge, MA 02138