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第19回 「It’s About the Bike」 石川 智弘  (2011/01/31)

    広島大学に単身赴任を決めた時に、通勤手段をどうしたものか、考えた。
 大学のウェブサイトを见ると「空港からタクシーで7000円」などと恐ろしげなことが书いてあった(近年改订され、今は详细な説明がある)。
 メンテナンスは楽しみのうちとしても、一人で片道10分くらいの通勤のために车を持つのは気が重い。しばし考えた末、かねて目を付けていた折りたたみ自転车を买い、浮いた予算でバス?タクシー?レンタカーを必要に応じて使うことにした。

 はじめてみると、数年ぶりの自転车通勤はなかなか快适だった。最寄りの西条駅から大学まで延びる道は、アップダウンこそあるものの道幅が确保され、四季折々の変化も感じられる。さして距离も変わらずに街道筋と川沿いの平らな道が选べることもわかった。晴れの日が多く、念のため买っておいたバスカードがなかなか减らないのは、うれしい误算だった。
 とはいえ问题もあった。駅からの道を除けば他の道は细く、车との距离は近い。道の脇には侧沟が盖もなく口を开けていて、落ちたらただでは済みそうにない。舗装は荒れていてマンホールがピッチャーマウンドよろしく盛り上がっていたりするし、一见レンガ敷きの道は浮き石に加えてところどころに穴が空いている。
 「暗くなったらなお危ない」と100円ショップの自転车ライトに始まり、メーカー製の自転车ライト、强力なペンライトまで试してみたが、それぞれかなり良くできていると思う反面、多少の不満が残った。
 连日のことだから充电できる电池を使うにしても、明るいものは相応に电力を喰う。発光ダイオード(尝贰顿)にすれば消费电力は减るが、ほとんどは青みが残った白色で周りが见えにくくなる。いずれにしても浅い角度で斜めに路面を照らしているので、配光を操作しなければ左右が狭く近くだけが明るい。当然と言えば当然の话ではある。
 「ハロゲン球20奥」とか「贬滨顿バルブ10奥」という、ほとんど原付なみの自転车用品まであったが、电池が重そうでさすがにやめた。どこかで折り合いをつけなければならないが、自分の「落としどころ」に近いものがなかなか见つからなかった。

 そんな訳で自転車のライトを自作することにした。最近は電球色のLEDができていて、これを使わない手はない。中身は白色同様に窒化ガリウム(GaN)の青色LEDなので、点灯には約3.6 Vの電圧が必要になる。最初は軽量化を狙って、単三の充電池二本(2.4 V)からコンデンサを使って昇圧(チャージポンプ)したり、コイルを使って昇圧(スイッチング)したり、自作回路で試行錯誤してみたが出力はいまひとつ。結局、部品を買いに行った秋葉原で見つけた「コンセントにさして充電、USB出力(つまり5 V)」という充電池に落ち着いた。半導体集積科学専攻だけに、すかさず某先生から「みすみす1.4 V分は熱にするのか」とツッコミが入ったが、先の自作回路とて重い負荷ではさして立派な効率にならない。「出先で充電できて必要なら携帯電話にも使えるからよかろう」と割り切った。
 电池に加えて、パワー尝贰顿、放热性のよい基板、6度×25度の楕円配光のレンズなどを揃えていくとなかなかのお値段で、早々にコストメリットはなくなった。もっとも、本人は工作が楽しく、もはや娯楽で気にはしなかった。
 ともあれ、表面実装のLEDを基板にハンダ付け(写真1)して放熱器に固定、とりあえずUSBの定格内で500 mA流すように抵抗をつないだ。白色に比べて効率で少々損をするとはいえ相応に明るく「これで安心」と走り出したが、事はそう簡単ではなかった。

 厄介なのは「自分と同じ自転车、ただし无灯火」というやつで、街灯のないところで逆走されるとなかなか见えない。なまじ灯りを付けた自転车と并走してくるとなお见えず、先に见えた方をよけるとえてして无灯火の方との衝突コースに入る。これには困った。
 また、暗く交通量の少ない道はジョギング爱好家も多く、上下を浓い色で固めた御仁が少なからず走っている。一度は人を避けたと思ったらその先に、これまた见事に真っ黒な大型犬が一绪に走ってきていて「ご対面」となったことがあった。こちらも慌てたが、犬も惊いたに违いない。「よしてくれよ」と言わんばかりの様子で、気の毒な事をした。

 无灯火の自転车はともかく、黒犬に腹を立てるわけにもいくまい。「自分の存在を示す」とか「路面を确认する」というだけでなく「ともかく自分で照らして见つける」必要がある。暗いところでは尝贰顿をもう一个点灯し、别なレンズで6度に绞って进路を照らすことにした。电池の出力には多少の余裕があり、抵抗の値を选べば両方点灯してもなんとか持つようにできた。
 この一灯追加は効果覿面で、黒犬ばかりか黒猫でも大丈夫という塩梅になった。照らされる人からすれば迷惑この上ないので、光が水平より上に行かないよう固定したのだが、犬たちからは相変わらず「よしてくれよ」と思われているかもしれない。

 以来数年、自転车は通勤のほか买い物や旅先でも大いに重宝している。自分で漕いで行くときもあれば车や电车、时には船にも载せる。雨が降ってきたら、自分も自転车も濡れてしまうので、大抵はたたんでとっとと店じまい。自転车で访れると楽しい行き先はなかなか多く、オフにもお勧めである(写真2:帝釈峡、写真3:しまなみ海道)。
 ところでみなさん、暗くなったらライトは点けましょう。

1)追記: " It's Not About the Bike"(邦題「ただマイヨ?ジョーヌのためでなく」)は、癌を克服してツール?ド?フランスを七度制したLance E. Armstrongの自伝。こちらもお勧めである。

(2011/01/31)

写真1. パワー尝贰顿の実装

写真2. 帝釈峡 雄桥

写真3. しまなみ海道 来岛海峡大桥


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