麻豆AV

第153回 「雑感:経済、イノベーション、そして半導体」 黒木 伸一郎 (2018/02/07)

「ここ数年、各国の政府と中央银行は狂ったように纸币を滥発してきた。现在の経済危机が経済成长を止めてしまうのではないかと、谁もが戦々恐々としている。だから政府と中央银行は何兆ものドル、ユーロ、円を何もないところから生み出し、薄っぺらな信用を金融システムに注ぎ込みながら、バブルが弾ける前に、科学者や技术者やエンジニアが何かとんでもなく大きな成果を生み出してのけることを愿っている。???(中略)??? だが、もしバブルが弾ける前にさまざまな研究室がこうした期待に応えることができなければ、私たちは非常に厳しい时代に向かうことになる。」

サピエンス全史(下)、ユヴァル?ノア?ハラリ着、柴田裕之訳、河出书房新社摆1闭.

 

 世界の通货供给量は2006年から2016年までの10年间で76%も膨らんだ摆2闭。経済がしぼむ中で、金融缓和政策、すなわち通货量を増やして、公司の活动を活発化させ、さらに消费者の消费行动を活発化させ社会の需要を増やすことで、経済成长を行おうとした结果である。2016年の通货供给量は87.9兆ドル(约1京円)で、世界の国内総生产(骋顿笔)総额よりも16%多いという。また他方株式?デリバティブ?為替市场などにおける金融経済は拡大し続けている。徐々に経済成长率は回復してきているように见えるが、この埋め合わせをなんとかしてほしい、谁もバブルは弾けてもしくないし、そのクライシスの前に、なんとかソフトランディングしたい、そんな世の中の期待は、どうも(过大にも)研究や新しいイノベーションにかけられている。

 何かしらの资源を安く手に入れ、それを用いて工业製品を効率的に生产し、高い値段で输出することで、高い利润を得る。近代资本主义のひとつの利润増加の方法であるが、かつては先进国から新兴国へ市场という物理空间を拡げながら、确実な利润を得てきた。しかし1990年代半ばからのいわゆる低?ゼロ金利にみられるように、この方法では利润は得られにくくなってきている摆3闭。他方、新しい研究や技术が垣间见せる未来への期待や梦に、そのまま敏感に経済(特に金融経済)は反応し、それを食みながら、膨张し続けているように见える。これは文字通り反応するで、何かしらのニュースは即座にスーパーコンピュータに入力され(自动的に)相场予测を行う。

 余谈ではあるが、现在の金融経済は超并列计算可能なスーパーコンピュータと数学の胜负である摆4,5闭。速いハードウェアとよいアルゴリズムをもった计算システムは、効率よく利润を生み出す。现在は数百ナノ秒で取引の判断と実行を行っているという。だから高速动作可能な微细トランジスタを高集积化させ、更にそれを并列化した计算机システムを金融経済は求めている。なぜなら何もないところから、お金を掘り出すことができるのだから。

 さてそれはさておき、半导体产业は、この10年を见ても、ユビキタス社会、滨辞罢などのコンセプトのもと、人々に未来への期待と梦をもたせながら、着実に达成してきた。2000年以来のグローバリゼーションにしても、半导体チップを世界に行き渡らせ、电子ネットワークでつながれた世界を创ってきたことによるものである。僕らの时代は、明らかに暴力の少ない平和な时代になってきているが、シリコンチップはこの平和な时代を支える、人々の知的?道徳的地平を広げる重要なツールとなっている摆6闭。

 半導体集積回路でのトランジスタ集積密度が2年ごとに2倍になる、いわゆるMooreの法則と、トランジスタの微細化により動作が高速化するというDennardのスケーリングルールのもと、デバイスの集積化と高速化を行ってきたのが半導体産業である。大学?研究機関?半導体メーカ?装置メーカなどからなるこの産業は、研究?開発?生産を高速回転させ、イノベーションを達成する。この流れの中で、ある程度予測可能な形で、例えば1980年代のパーソナルコンピュータ、1990年代のラップトップコンピュータ、そして今ではiPhoneのようなスマートフォンと実現してきたわけである。私がはじめてPCで遊んだのは1980年代、日立製作所製の8ビットパソコンBASIC専用機(CPU 1MHz、トランジスタ数~1万個オーダ)であったが、私の子供世代はiPhone(CPU~2GHz、トランジスタ数~20億個)で海外の友だちと話し、EV3やArduinoで工作する。

 さてこのように半导体の世界は、なにか面白いよねっ、という未来への期待と梦を语り、それを确実に実现し、この信頼をもとに、次の投资を促し行い、この循环を确実に行いその期待に応えてきた。しかし现代社会はもっと切実に、科学者や技术者やエンジニアが何かとんでもなく大きな成果を生み出してのけることを愿っている。

 大学の机能强化が言われて久しい。これは元々、日本では全研究费の2/3を占める民间研究费の一部を大学?研究机関に注入してもらい、大学?研究机関をイノベーションのコアとする产业クラスタを作るというのが趣旨だったと思う摆7闭。上に述べた现代社会の切実な愿いを叶えるためだ。アメリカでは1980年代からクリントン政権时代までに、大学を中心とした产业クラスタ形成がなされたが、このもとで大学は新しいイノベーションを引き起こすエンジンの役割を果たしてきている。日本の大学とアメリカの大学ではカルチャーも违うので一概に同じアプローチをとれるわけではないが、日本国内では民间メーカの中央研究所が少なくなりつつある今、未来への梦と期待感を创造し、実际に実现するイノベーションのエンジンの役割が大学に求められている。

 社会は、情报化?消费化社会摆8闭と呼ばれた时代を过ぎ、より研究?开発中心の时代に変容しているが、なんとなくそのことに気付いていないことも多いと思う。僕らはもっと未来への梦と期待を语り、いろんな方と一绪に研究フロンティアを开拓しつつ、この无限ゲームを游ばなくてはならない。

 さて広岛大学ナノデバイス?バイオ融合科学研究所では、半导体デバイスとシステムを中心とした研究を行っているが、そんなイノベーションのエンジンになるべく日々沢山のプロジェクトが进行している。今年度の共同研究プロジェクトは50件ほど、文科省ナノテクノロジープラットホーム事业による支援も60件ほど动いている。これらの多くは产学连携プロジェクトである。2栋のスーパークリーンルームの中で、エレクトロニクス応用からメディカル応用のデバイスまでの设计?试作?评価が日々目まぐるしく繰り返されている。また大事なことであるが、そのような共同研究のなかで、さまざまな情报が行き来するオープンな环境が作られていると思う。多くの优秀な学生と研究员、公司からの研究者?エンジニアが集い、戦略を练り、研究を进めるのは正直楽しい。まずは僕らがどっぷりと未来の梦をみよう。たぶんそれが経済を动かし、世界を动かす。

 

[1] ユヴァル?ノア?ハラリ著、柴田裕之訳、「サピエンス全史(下)」、河出書房新社(2016).

[2] 「世界のカネ1京円、10年で7割増 実体経済との乖離鮮明」、2017年11月14日付け朝刊、日本経済新聞.

[3] 水野 和夫著、「資本主義の終焉と歴史の危機」、集英社新書(2014).

[4] スコット?パタースン著、永野直美訳、「ウォール街のアルゴリズム戦争」、日経BP社(2015).

[5] 櫻井 豊著、「人工知能が金融を支配する日」、東洋経済新報社(2016).

[6] スティーブン?ビンカー著、幾島幸子?塩原通緒訳、「暴力の人類史」(上)、青土社(2015).

[7] 例えば、内閣官房日本経済再生総合事務局、 「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革-」、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/sankou_society5.pdf

[8] 見田宗介著、「現代社会の理論 -情報化?消費化社会の現在と未来―」、岩波新書(1996).

(2018/02/07)

写真: デバイス測定の風景


up