広島大学 大学院先进理工系科学研究科
宮原 正明(みやはら まさあき)准教授
罢别濒:082-424-7461 贵础齿:082-424-0735
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本研究成果のポイント
- 小惑星リュウグウの粒子から、カリウムを含む鉄ニッケル硫化鉱物「ジャーフィシャー鉱(1)(诲箩别谤蹿颈蝉丑别谤颈迟别)」を世界で初めて确认。
- ジャーフィシャー鉱は、リュウグウのような低温?水质変成を受けた环境では生成しないとされる、极めて特异な鉱物。
- この発见は、リュウグウの内部にカリウムに富む流体が存在した高温かつ还元的な局所环境があったか、もしくは外来天体由来の物质が混入していた可能性を示唆する重要な証拠となる。
概要
広岛大学を中心とする研究チームは、小惑星リュウグウから回収された粒子の中に、これまで予想されていなかった鉱物「ジャーフィシャー鉱(诲箩别谤蹿颈蝉丑别谤颈迟别)」を発见しました。ジャーフィシャー鉱は、カリウムを含む鉄ニッケルの硫化鉱物で、これまでに高温?还元的な环境で形成されるエンスタタイトコンドライト(2)やオーブライト(3)陨石からしか见つかっておらず、リュウグウやそれに类似した颁滨コンドライト(4)では未报告の鉱物です。
研究チームは、リュウグウから採取された粒子(试料番号:颁0105-042)を电子顕微镜で详しく観察し、この鉱物を発见しました。ジャーフィシャー鉱がリュウグウに存在する理由として、以下の2つの仮説が考えられています:
1)外部由来説:别の陨石(エンスタタイトコンドライトやオーブライト)の破片がリュウグウの母天体に取り込まれた。
2)内部生成説:リュウグウの内部に一部だけ高温で还元的、かつカリウムに富む流体环境が存在し、そこで生成された。
现在のところ、この鉱物の起源を直接特定するための同位体分析などのデータは得られておらず、どちらの仮説が正しいかは明らかではありません。しかし、この発见は、リュウグウの内部が一様な环境ではなく、化学的に复雑な构造を持っていた可能性を示唆する重要な成果といえます。
本研究成果は、2025年5月28日付で国際学術誌 Meteoritics & Planetary Science に掲載されました。
论文情报
【論文タイトル】Djerfisherite in a Ryugu grain: A clue to localized heterogeneous conditions or material mixing in the early solar system
【著者】Masaaki Miyahara, Takaaki Noguchi, Akira Yamaguchi ほか
【顿翱滨】10.1111/尘补辫蝉.14370
背景
小惑星リュウグウから回収された粒子は、地球に落下する陨石の中でも最も“始原的”なタイプとされる「颁滨コンドライト」と非常によく似た特徴を持っています。颁滨コンドライトは、太阳系が诞生して间もない时期に形成され、过去に水の影响を强く受けていることが知られています。その结果、内部の鉱物が溶けたり変质したりしており、これまでの研究から太阳系初期における水の働きや化学环境の変迁についての重要な手がかりが得られてきました。
颁滨コンドライトの大きな特徴の一つは、ナトリウム(狈补)やカリウム(碍)といったアルカリ元素を多く含む鉱物が非常に少ないことです。これは、过去の水质変成によってこれらの成分が溶け出してしまったためと考えられています。ところが近年、リュウグウ粒子の中には、アルカリ成分を多く含む鉱物や痕跡が存在する可能性が明らかになってきました。たとえば、2023年の研究では、ある粒子にナトリウムが高浓度で存在する领域が见つかり、これは元々水酸化ナトリウム(狈补翱贬)として存在していた可能性が指摘されています(※1)。さらに别の粒子では、ナトリウムの炭酸塩?塩化物?硫酸塩が报告されており、リュウグウの母天体には、塩分を含むアルカリ性の水が存在していたと考えられています(※2)。
今回の研究では、これらの知见をふまえ、カリウムを含む鉱物がリュウグウに存在するかどうかを明らかにするため、颁0105という粒子を详细に分析しました。この调査により、リュウグウ内部に存在していた未知の化学环境や、外部天体由来の物质の混入など、太阳系初期の物质进化や形成过程に関する新たな情报が得られると期待されます。
研究成果の内容
リュウグウから回収された粒子(试料番号:颁0105-042)は、外见上は他の粒子と変わらないものでしたが(図1)、极薄に加工した试料を透过型电子顕微镜(5)で详しく调べたところ、「ジャーフィシャー鉱(诲箩别谤蹿颈蝉丑别谤颈迟别)」という极めて小さな鉱物(幅1マイクロメートル以下)が见つかりました(図2)。この鉱物は、カリウムを含む鉄ニッケルの硫化物であり、周囲には粘土鉱物、磁鉄鉱(マグネタイト)、磁硫鉄鉱(ピロータイト)などが共存していました。
ジャーフィシャー鉱は、これまでエンスタタイトコンドライトやオーブライトといった、太阳系内でも特に高温かつ酸素の少ない(还元的な)环境で形成された陨石でしか报告されていない鉱物です。これに対し、リュウグウや颁滨コンドライトは、水の影响を强く受けた低温环境で形成されたとされており、まったく异なる成り立ちを持ちます。たとえるなら、北极の海に热帯鱼が泳いでいるような、不自然な状况と言えるでしょう。
リュウグウは、太阳系が诞生してから约180万?290万年后に形成された母天体(より大きな天体)の一部と考えられています(※3)。この母天体は、水や二酸化炭素が氷として存在する外太阳系で形成され、その内部では放射性元素の崩壊によって発生した热で氷がゆっくりと溶け出したと推定されています。ただし、その际の温度はおおよそ50℃以下とされています。
一方、ジャーフィシャー鉱を含むエンスタタイトコンドライトやオーブライトの母天体は、太阳に近い内侧の高温领域で形成されました。ここでは、高温ガスから鉱物が直接结晶化したと考えられており、ジャーフィシャー鉱はそのような环境で生成されたとされています。また、地球上でも同様に还元的な环境にあるアルカリ性贯入岩やキンバーライトなどからごく少量见つかっており、カリウムを含む热水が鉄ニッケル硫化物と反応することで、350℃以上で生成されることが合成実験から确认されています。
これらの知见をふまえ、研究チームは今回の発见に対して次の2つの仮説を立てています(図3):
1)外来起源説
别の天体、たとえばエンスタタイトコンドライトの母天体が衝突によって破壊さ
れ、その破片が太阳系内を外侧に移动してリュウグウの母天体に取り込まれた可
能性。
2)内部生成説
リュウグウ内部に、何らかの要因(たとえば衝突)で局所的に高温かつ还元的な
环境が形成され、カリウムを含む热水や蒸気が鉄硫化物(ピロータイトなど)と
反応してジャーフィシャー鉱が生成された可能性。
现时点では决定的な証拠はなく、鉱物の同位体组成(7)などの分析も今后の课题ですが、粒子の周囲の组织が乱れていないことや鉱物の状态から、リュウグウ内部で生成されたという「内部生成説」の方が有力と考えられます。
今后の展开
今回リュウグウの粒子からジャーフィシャー鉱が発见されたことは、太阳系が诞生して间もない顷、成り立ちの异なる物质が混ざり合っていた可能性を示唆しています。あるいは、リュウグウ内部にこれまで见落とされていた“局所的に特殊な化学环境”が存在していたとも考えられます。
この発见は、リュウグウが一様な组成を持つとされてきた従来の见解に再検讨を迫るものであり、原始小惑星が内包する化学的?热的な多様性について、新たな视点を提供します。
现在のところ、ジャーフィシャー鉱の同位体组成や成分起源を特定するための详细なデータは得られておらず、さらなる分析が今后の重要な课题です。また、他のリュウグウ粒子でも同様の鉱物が検出されれば、太阳系初期の物质循环や天体の热的履歴の再构筑に向けた大きな手がかりとなることが期待されます。
※1 Yamaguchi A., Tomioka N., Ito M., Shirai N., Kimura M., Greenwood R. C., Liu M.-C., McCain K. A., Matsuda N., Uesugi M., Imae N., Ohigashi T., Uesugi K., Nakato A., Yogata K., Yuzawa H., Kodama Y., Hirahara K., Sakurai I., Okada I., Karouji Y., Nakazawa S., Okada T., Saiki T., Tanaka S., Terui F., Yoshikawa M., Miyazaki A., Nishimura M., Yada T., Abe M., Usui T., Watanabe S.-i., and Tsuda Y. (2023) Insight into multi-step geological evolution of C-type asteroids from Ryugu particles. Nature Astronomy 7, 398–405.
※2 Matsumoto T., Noguchi T., Miyake A., Igami Y., Matsumoto M., Yada T., Uesugi M., Yasutake M., Uesugi K., Takeuchi A., Yuzawa H., Ohigashi T., and Araki T. (2024) Sodium carbonates on Ryugu as evidence of highly saline water in the outer Solar System. Nature Astronomy 8, 1536–1543.
※3 Nakamura T., Matsumoto M., Amano K., Enokido Y., Zolensky M. E., Mikouchi T., Genda H., Tanaka S., Zolotov M. Y., Kurosawa K., Wakita S., Hyodo R., Nagano H., Nakashima D., Takahashi Y., Fujioka Y., Kikuiri M., Kagawa E., Matsuoka M., Brearley A. J., Tsuchiyama A., Uesugi M., Matsuno J., Kimura Y., Sato M., Milliken R. E., Tatsumi E., Sugita S., Hiroi T., Kitazato K., Brownlee D., Joswiak D. J., Takahashi M., Ninomiya K., Takahashi T., Osawa T., Terada K., Brenker F. E., Tkalcec B. J., Vincze L., Brunetto R., Aleon-Toppani A., Chan Q. H. S., Roskosz M., Viennet J. C., Beck P., Alp E. E., Michikami T., Nagaashi Y., Tsuji T., Ino Y., Martinez J., Han J., Dolocan A., Bodnar R. J., Tanaka M., Yoshida H., Sugiyama K., King A. J., Fukushi K., Suga H., Yamashita S., Kawai T., Inoue K., Nakato A., Noguchi T., Vilas F., Hendrix A. R., Jaramillo-Correa C., Domingue D. L., Dominguez G., Gainsforth Z., Engrand C., Duprat J., Russell S. S., Bonato E., Ma C., Kawamoto T., Wada T., Watanabe S., Endo R., Enju S., Riu L., Rubino S., Tack P., Takeshita S., Takeichi Y., Takeuchi A., Takigawa A., Takir D., Tanigaki T., Taniguchi A., Tsukamoto K., Yagi T., Yamada S., Yamamoto K., Yamashita Y., Yasutake M., Uesugi K., Umegaki I., Chiu I., Ishizaki T., Okumura S., Palomba E., Pilorget C., Potin S. M., Alasli A., Anada S., Araki Y., Sakatani N., Schultz C., Sekizawa O., Sitzman S. D., Sugiura K., Sun M., Dartois E., De Pauw E., Dionnet Z., Djouadi Z., Falkenberg G., Fujita R., Fukuma T., Gearba I. R., Hagiya K., Hu M. Y., Kato T., Kawamura T., Kimura M., Kubo M. K., Langenhorst F., Lantz C., Lavina B., Lindner M., Zhao J., Vekemans B., Baklouti D., Bazi B., Borondics F., Nagasawa S., Nishiyama G., Nitta K., Mathurin J., Matsumoto T., Mitsukawa I., Miura H., Miyake A., Miyake Y., Yurimoto H., Okazaki R., Yabuta H., Naraoka H., Sakamoto K., Tachibana S., Connolly H. C., Jr., Lauretta D. S., Yoshitake M., Yoshikawa M., Yoshikawa K., Yoshihara K., Yokota Y., Yogata K., Yano H., Yamamoto Y., Yamamoto D., Yamada M., Yamada T., Yada T., Wada K., Usui T., Tsukizaki R., Terui F., Takeuchi H., Takei Y., Iwamae A., Soejima H., Shirai K., Shimaki Y., Senshu H., Sawada H., Saiki T., Ozaki M., Ono G., Okada T., Ogawa N., Ogawa K., Noguchi R., Noda H., Nishimura M., Namiki N., Nakazawa S., Morota T., Miyazaki A., Miura A., Mimasu Y., Matsumoto K., Kumagai K., Kouyama T., Kikuchi S., Kawahara K., Kameda S., Iwata T., Ishihara Y., Ishiguro M., Ikeda H., Hosoda S., Honda R., Honda C., Hitomi Y., Hirata N., Hirata N., Hayashi T., Hayakawa M., Hatakeda K., Furuya S., Fukai R., Fujii A., Cho Y., Arakawa M., Abe M., Watanabe S., and Tsuda Y. (2023) Formation and evolution of carbonaceous asteroid Ryugu: Direct evidence from returned samples. Science 379, eabn8671.
図1.ジャーフィシャー鉱が発见されたリュウグウ粒子の电子顕微镜像。この図は、リュウグウ粒子の表面构造を走査型电子顕微镜で撮影したものです。内部を详细に调べるため、この粒子の一部を集束イオンビーム(6)で薄片化し、透过型电子顕微镜による観察が行われました。
図2.ジャーフィシャー鉱の透过型电子顕微镜像。この図の中央部の细长い黒い粒子がジャーフィシャー鉱(大きさは约1マイクロメートル以下)です。

図3.ジャーフィシャー鉱の2つの起源説の概念図。
用语解説
(1)ジャーフィシャー鉱(djerfisherite: K6(Fe, Cu, Ni)25S26Cl)
カリウム(碍)を含む鉄とニッケルの硫化鉱物。地球外では、エンスタタイトコンドライトやオーブライトといった、还元的かつ高温な环境で形成された陨石に特徴的に含まれる。地球上でもまれにアルカリ性のマグマが冷えてできた岩石やキンバ
ーライト中に见られる。ニッケル硫化鉱物は、ニッケルの主要な资源のひとつである。そこから得られる金属ニッケルは、ステンレス钢や电池、各种合金など、现代社会で広く使われている製品の材料として利用されている。
(2)エンスタタイトコンドライト
太阳系の内侧、非常に高温かつ还元的な环境でできたと考えられる陨石の一种。ケイ酸塩鉱物であるエンスタタイト(惭驳厂颈翱?)を主成分とする。
(3)オーブライト
エンスタタイトを主成分とする希少な陨石。エンスタタイトコンドライトと密接な関係にある。
(4)颁滨コンドライト
太阳に最も近い化学组成をもつとされる始原的な陨石のグループ。水による强い変质(=水质変成)を受けており、有机物や水に富む鉱物が含まれる。
(5)透过型电子顕微镜
加速した电子ビームを试料に透过させて観察する高倍率の电子顕微镜。数ナノメートル以下の微细构造や结晶の配列まで可视化できる。
(6)集束イオンビーム
粒子の一部をナノメートルスケールで削って薄片に加工する装置。电子顕微镜観察用の试料作製に使われる。
(7)同位体组成
同じ元素でも质量数の异なる原子(同位体)が存在する。その割合(比率)を调べることで、物质の起源や年代などを特定する手がかりが得られる。