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第19回 二川 浩树 教授(大学院医歯薬学総合研究科)

インフルエンザの拡大リスクを軽减する化合物の作製に成功!

二川浩樹教授

大学院医歯薬学総合研究科 口腔健康科学専攻 口腔健康科学講座 (にかわ ひろき)教授

に聞きました。 (2009.11.13 社会連携?情報政策室 広報グループ)

プロフィール

二川教授の専门は口腔生物工学です。1990年広岛大学大学院歯学研究科博士课程修了后、口腔?顎?颜面领域の欠损に伴う机能の损失に対しての生体材料による机能修復などを研究してきました。教授は「歯の治疗をしてもすぐにまた、むし歯になってしまう」と、治疗后の歯磨きがきちんとできずに、口の中の状态を悪化させてしまう障害をもつ患者さんたちの声から、歯を抗菌加工して菌の付着を防げないかと2002年、固定化抗菌剤(消毒成分)の研究を开始します。

 

洗剤の开発、そしてベンチャー公司立ち上げへ

入れ歯やインプラントなどの抗菌を目指していた研究でしたが、技術的な困難を伴うだけでなく、 歯そのものの食品摩耗が問題であり、事前の抗菌では思うように効果が持続しない可能性がありました。そこで教授は、食べ物や口腔洗浄剤など、もっと簡単に効果が持続する方法がないかと考えます。
歯科用抗菌洗浄剤开発のノウハウは洗濯用洗剤などにも応用できそうだと2007年、総合化学メーカーとの共同研究が始まります。

そして教授は、洗うたびに衣类を抗菌加工できる新たな洗剤を开発。
その商品化を図るため2009年4月22日、広岛大学発ベンチャー公司を设立します(4月23日付け中国新闻に记事掲载)。

この洗剤は、衣类の生地の表面に抗菌剤が结合して长期间とどまり、効果が持続するもので、JISで规定された试験法の実験(3分间浸して绞った后、5分间水洗い)では、一般的な洗剤を使ったタオルに1万个の细菌(黄色ブドウ球菌)をつけると、18时间后に1,000~1万倍に増殖したのに対し、新洗剤では细菌は検出できませんでした。50回の洗濯にも抗菌剤は剥がれていませんでした。

左:固定化消毒剤 右:市販の消毒薬

消毒薬に布片を浸し絞った後、流水で水洗い。布片にどの程度効果が残っているかを特殊な試薬で見てみると…(左:固定化消毒剤 右:市販の消毒薬)

安全で取り扱いも简単

固定化抗菌剤は工业用に使用されるもので、溶かすために有机溶剤が使われていました。今回教授が开発した新化合物(贰迟补办)は、4级アンモニウム塩(杀菌成分)をもつエトキシシラン系の全く新しい化合物です。

Etakの固定化メカニズム

もともと口の中に使うものとして开発した物质なので、生体に安全(工场においても特殊な设备が不要)であるだけでなく、抗菌性も高く、原液を水やエタノールあるいはその混合の溶媒に溶解(安全な溶液で希釈)することができます。0.06%程度の低浓度で布、木、ガラス、金属などに数分间で固定化が可能です。しかも室温(高温とか特殊な作业环境も必要がない)で容易に。

  Etak水溶液の抗トリインフルエンザウィルス効果

通常の消毒薬は乾燥すると杀菌力が低下しますが、例えば机の表面にこの固定化消毒剤を喷雾し、薄くのばすだけで、消毒薬(杀菌成分)が机の表面と反応(化学结合)して固定化するため、乾燥しても抗菌性が持続しています。抗菌処理后の机の上に飞んできた菌は、机に接触して死灭するため、空中への菌の浮游も少なくなり、空気感染(注1)や接触感染(注2)による感染拡大のリスクを下げることが期待できると、教授はいいます。

効果の持続+効果の付与?付加

黄色ブドウ球菌、MRSA、表皮ブドウ球菌、セレウス菌、虫歯菌や大腸菌 O157などに効果があることを確認しましたが、残念ながらノロウイルス(注3)には効果がないそうです。

(注1)空気感染は、咳やクシャミで飞び散った小粒子から水分が抜けた状态でインフルエンザ核だけが空気中に浮游し、それを同じスペースにいる人や后から入って来た人が吸入することによって感染することです。飞沫核感染とも言われています。冬季のように部屋の中の空気が乾燥し、低温であると、より长くウイルスは感染性を维持し続けるため、インフルエンザの流行は冬场に多くなっています。
(注2)接触感染は、インフルエンザ感染者から生じた飞沫が様々なものに付着し、それを他の人が触ることによって感染することを言います。鼻や目、口などの粘膜からインフルエンザのウイルスは侵入すると考えられています。
(注3)ノロウイルスについては、本学大学院生物圏科学研究科生物機能開発学専攻食資源科学講座島本整(しまもと ただし)教授の研究を紹介したをご参照ください。
 

 

インフルエンザウイルスへの効果を确认!

新型インフルエンザの流行への対策は、个人に対しては、マスクの着用、うがいや手洗いの励行、公共交通机関や学校などには消毒薬による手指の消毒を行うものです。ところが今年は、通常ウイルスの活动が钝くなる夏场になっても、思ったほど势いが止まらず、さらに季节外れの11月に流行のピークを迎えています。

10年間の比較データ

提 供の2009年11月10日21時現在の過去10年間のインフルエンザ比較データでは、第44週(10月26日から11月1日)の1週間に159,651 例の報告があり、定点あたり報告数(1週間の1医療機関当たりへの受診患者数)は、33.28となり、流行警報のレベルとなっている。
      

教授は、この秋新型インフルエンザが再び流行し大変なことになっているが、鸟がウイルスを世界中どこにでも运んで媒体するのでトリインフルエンザも流行したら大変なことになる。本剤がトリインフルエンザウイルスなどに有効であれば、新型インフルエンザにも有効である可能性がある。学校、病院やホテルなど公共施设で使用されるリネン类、床材、机など、あるいは、公共交通机関の座席などへの抗菌加工によって、この感染拡大の防止につながると考え、2009年5月に本学医歯薬学総合研究科の坂口剛正(さかぐち たけまさ)教授に、本剤のインフルエンザウイルスに対しての抗菌効果に関する共同研究を依頼します。

「なかなか収まってくれませんね。このままだと大変なことに???」と二川教授。

「なかなか収まってくれませんね。このままだと大変なことに???」と二川教授。

そして2009年9月17日、抗菌効果の一定期间の持続が确认できたのを受けて、医疗现场などで消毒薬として用いられている消毒成分を、学校の机?椅子や公共交通机関の座席などの表面に固定化(抗菌加工)することができる、新しい化合物の作製に成功したと発表します。

広岛大学东京オフィスにおける记者会见の様子はこちら

室温で、しかも数分程度で固定化が可能であり、その抗菌効果は、実験室レベルでは、実験开始后半年以上経过した现在も持続しており、涂布した机などの表面が磨耗しない限りは半年以上持続すると考えられます。坂口教授は「インフルエンザウイルスにかなり强い効果があります。消毒剤を固定化する発想はユニークです」と述べています。

 

どんなウイルスでも翱碍?

どんなウイルスにでも効果があるわけではなく、エンベロープのあるウイルスに対してのみ有効性が确认できていると、残念そうな二川教授。

エンベロープとは、単纯ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルスなど一部のウイルス粒子に见られる膜状の构造のことで、ウイルスの基本构造を形成するウイルスゲノムやカプシドタンパク质(ウイルスゲノムを取り囲むタンパク质の殻)を覆っている、ウイルス粒子の最も外侧に位置している构造物です。

エンベロープはその大部分が脂质から成っており、エタノールや有机溶媒などで処理すると容易に破壊することができるため、一般にエンベロープを持つウイルスは、消毒用アルコールでの不活性化が、エンベロープを持たないウイルスに比べると容易なのだそうです。

原理的には、インフルエンザウイルス(ヒト、トリ、豚)以外にも、パラインフルエンザウイルス、肝炎ウイルス、はしかウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、狂犬病ウイルスにも有効と考えられます。

また本剤は、坂口教授が最近入手した新型インフルエンザウイルスに対しての有効性も确认し、现在も実験を継続中です。

※その后の研究により、非エンベロープのノロウィルスにも、アデノウィルスにも効果があることがわかりました。(贬24.11.30追记)

浓く染まって见える粒状のものが、新型インフルエンザウイルスに感染して死灭した细胞

浓く染まって见える粒状のものが、新型インフルエンザウイルスに感染して死灭した细胞

0.06%の固定化消毒薬で保护されている细胞

0.06%の固定化消毒薬で保护されている细胞

インフルエンザについて復习

インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型の3つの型があります。人间の世界ではA型とB型が流行を起こしています。今回话题となっている新型(豚)インフルエンザもA型です。インフルエンザウイルスの表面にある糖タンパク质の突起物が、トリやブタやヒトの细胞(受容体)にくっついて感染していくのだとか。

A型にはヘマグルチンが贬1から贬16までの16种类、ノイラミターゼが狈1から狈9までの9种类あり、これらの组み合わせでインフルエンザの种类が决まるそうで、新闻纸上などで见闻きする「贬1狈1」というのは、インフルエンザウイルスの种类を表しているそうです。理论的に考えられる144种类のインフルエンザウイルスの中で、人で流行しているのはほんの数种类で、ほとんどが未体験(免疫力がない)のウイルスなのだそうです。

当初、豚インフルエンザ贬1狈1型を起源として発现と报告されていたことから「豚インフルエンザ」と呼ばれていましたが、奥贬翱は2009年4月に「インフルエンザ础(贬1狈1)2009」と呼称変更することを発表しました。今年、人间の世界に新たに流行したことから、一般的に「新型」インフルエンザとも呼ばれ、免疫力のないヒトが感染すると致死性の重症肺炎を起こす可能性があるため、恐れられています。

 

早期の実用化に向けて

この固定化消毒剤は、ガラスや金属にも固定しやすく、例えばこの消毒剤で抗菌防止洗剤を作ると、汚れを落とすと同时に、抗菌剤が衣类に固定されます。一般の洗剤と违い、固定化された抗菌剤が雑菌やカビの繁殖も抑えてくれて、洗濯槽もあわせて抗菌防臭してくれるのです。食器洗い机用の洗剤(食洗机も一绪に洗浄?抗菌固定)などにも使えそうです。

树脂、塩ビ、アクリルなどには固定しにくいのですが、衣类やリネン类にも固定してくれるので布製のソファや椅子の背もたれにも使用できます。マスクやエアコンのフィルターなどの不织布への使用も大丈夫とのこと。

树脂などは固定が困难ですが、かなりの种类の材质への固定化が可能

树脂などは固定が困难ですが、かなりの种类の材质への固定化が可能

二川教授と共同研究を行い、「抗インフルエンザウイルス机能繊维」の量产化技术の开発に取り组んできたクラボウ繊维事业部(本社:大阪府)は10月19日、平成21年11月下旬の贩売开始を目指して、繊维素材(卫生繊维製品、衣料品、リビング製品、医疗资材)の量产化の开始と、関係会社との连携による不织布やフィルターなどの分野への展开计画を発表しました。この他にも、ビルメンテナンス分野や化学?薬品メーカーなどが独自に早期実用化に向け準备中です。

教授は、本技术が、教育施设や公共交通机関での使用、ホテル?病院清扫関连、リネン関连、クリーニング関连あるいは一般家庭の衣类などへと幅広く展开して、菌やウイルスの拡大リスク軽减に贡献できると大いに期待しているし、そうなればうれしいと言い残して学生と共に実験室に消えて行きました。

あとがき

二川先生は、抗菌剤を固定する役目を果たす固定剤(接着剤の役目)にシラン化合物を选択しました。「どれほど多くの材料を试されたのですか?」と质问する笔者に「実は最初のマッチングで効果があり、惊きました。本当にラッキーでした。こんな时もビギナーズラックって言うんですかね?」と笑う二川先生。でも、何となく合いそうだとの勘が働く背景には、これまでの研究の积み重ねという里付けがあったはずで、ただのビギナーズラックではなかったことは容易に推察できます。
インフルエンザの集団感染で学级闭锁や学年闭锁を余仪なくされている学校现场や、秋の観光シーズンを迎える観光协会からぜひ试したみたいとの要望が先生のもとにたくさん届いているそうですが、すべてに応えることはできないんですと、申し訳なさそうな先生。本学附属东云小学校への寄赠の现场に出张中で立ち会えなかった先生に、児童たちの写真をお见せして报告したときの嬉しそうな颜が、今も忘れられません。先生!私も商品化が待ち远しいです。(O)

お茶目な先生は、ご自分の手(小指)で皮膚への固定化を実験

お茶目な先生は、ご自分の手(小指)で皮肤への固定化を実験。

入浴したのに、翌日も効果が残っていました。


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