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第1回 アンデルセン?パン生活文化研究所 庄林 爱 氏

写真 庄林さん 

ーチャンスだと思ったらその时を逃すなー

記念すべき第1回の特集コーナーは、アンデルセン?パン生活文化研究所の庄林 愛(しょうばやし めぐみ)氏にお話を伺いました。

Profile
広島大学工学部第三類発酵工学 卒業
サントリー株式会社 就職
広島県産業科学技術研究所 就職
酒類総合研究所 就職
論文博士(農学) 取得
【现在】
株式会社アンデルセン?パン生活文化研究所 部长

研究内容―低アレルゲンや低カロリーのパン?お菓子の开発―

パンやお菓子の中で、食品アレルギーを持っている方向けの低アレルゲンのお菓子や、食事疗法が必要な方向けの低たんぱくや低カロリー?低糖质のパンやお菓子といったヘルスケア食品を开発しています。
通常のパンの原材料である小麦、卵、牛乳などにはたんぱく质が含まれており、そのたんぱく质はパンの风味や食感などの品质を左右する重要な役割を持っています。低たんぱくのパンやお菓子を开発しようとすると、たんぱく质を含むこれらの原材料が使うことができないので、风味や食感が変わってしまいます。そのため、代わりにどんな原材料を使ったら、たんぱく质を减らしても普通のパンと同じようなおいしい食品を作れるかという点を考える必要があります。
例えば、乳アレルゲンを除くため生クリームを豆乳クリームに置き换えるなど、単一の代替品で良い原材料が见つかる场合はそこまで难しくありませんが、一つの代替品で置き换えができない场合は何种类もの原材料を组み合わせた上で置き换えないといけないので、素材探しと素材の组み合わせが上手くいくかどうかが大切になります。
开発期间としては、比较的早く完成する时もありますが、冷冻してお届けするパンなどは、商品を冷冻してどのくらいの期间ならば品质が保てるかといった実験が必要であり、开発期间に时间を要する场合もあります。
また、通常の商品に使用する原材料の多くを他の原材料に置き换えた製品を大量生产する场合、いつも使用している工场の生产ラインではうまく製造できないこともあります。その际は、ラインの特性に合わせ配合や工程を调整することが必要になります。一回でテストがうまくいくと良いのですが、何回も研究室に戻って配合や製法を调整する场合もあります。
最近は、カロリーゼロ饮料というのを良く闻くと思いますが、饮料は液体で、そのほとんどがカロリーゼロの水です。一方、パンのように固体の食品ですと、炭水化物やたんぱく质のようなカロリーの高い成分が多く入っており、水分が少ないので、液体の饮料のようにカロリーを大幅に减らすことは难しい作业になります。
また、ケーキに使用されているクリームは、一般的に「口の中でトロッと溶けて浓厚な感じがして甘い」というイメージが出来上がっているので、お客様が持っているクリームのイメージを崩さないように、カロリーを减らすだけではなく、食感や见た目にも気を配らなければなりません。
开発の际には、カロリーダウンや低アレルゲン等といった栄养成分の项目だけではなくて、见た目、食感、味や香りなど、食品に求められるおいしさの项目もある程度満たさなければ、ケーキとして认めて貰えません。そのため、おいしさについても手を抜くことはできません。

写真 食品アレルギーを持っている方や食事療法が必要な方向けのお菓子

业界初!!介护用食パン「らくらく食パン」の开発

介护用食パンの开発に着手する前は、製パンメーカーに勤めていながらパンが食べにくいということを考えたことはありませんでした。しかし、医疗の现场では高齢の方や、病気や事故で障害が残ってしまった方、生まれつき身体に障害のある方などには、実はパンはものすごく危ない食べ物とされていました。それは、パンはおかゆなどと比较して水分が少なく、误饮や窒息する可能性を持っているからだそうです。これから高齢社会になるなかで、少しでも美味しく安全に食べてもらえるようなパンを开発できないかということになり、介护用食パンの开発を行うことになりました。
开発当初は、パンで介护食といってもなかなか良いアイディアが思いつきませんでした。そのため、実际に介护食をいろいろと食べてみて、パンを介护食として提供するためにはどうすればよいのかというのを考え、スプーンですくって食べられるような柔らかい物性があるという点と、いつも食べているものと同じパンの见た目と味がするという点、この2点を満たすものを开発しようというアイディアがまとまりました。
介护用食パンを着想して、研究室で试作品を作るところまでは结构早かったのですが、工场での製造実绩がないということもあり、工场で安定して製造できるようになるまでは少し时间がかかりました。また、それまでパンの介护食というものはなかったので、高齢で食べることが难しくなり介护食を日ごろ召し上がっていらっしゃる方に提供して本当に大丈夫か、という安全性を确认する必要もありました。噛んだり饮み込んだりすることが难しい人に召し上がっていただくものなので、トラブルがあった场合は、窒息という命に直结するような事态になりかねません。そのため、きちんとした検証をしなければなりませんでした。
しかし、私自身には実际にどのように検証すればよいのかというノウハウがなかったので、広岛大学大学院医歯薬保健学研究院の吉川先生にご协力顶き、安全性确认の临床研究を1年ほどかけて行いました。临床研究の中で対象となる方に介护用食パンを提供してみると、パン食のニーズが高く、高齢者施设におけるモニター评価でもとても好评で、商品化の运びとなりました。

写真 商品「らくらく食パン」

実際に商品化してご利用頂いた皆様からの声を伺うと、私たちが当初想定していた高齢の方の介護食だけでなく重度の身体障害を抱えた方や、がんの治療中の 方、脳卒中や交通事故の後遺症等が残っている方など、食べるということに問題を抱えている方に幅広いニーズがあることが分かりました。
例えば、が んのために抗がん剤治療をすると、副作用として口内炎がたくさんできてしまい、食品を摂取することが難しくなります。その結果栄養が十分に取れなくなって 体力が落ちてしまい、治療が進まないということがあります。しかし、介護用食パンなら小児がん治療をしているお子さんにも食べていただけるということで病 院で提供し、喜んでいただいています。
このように自分が想定していた以上に、食べることが难しい方がいろいろな世代にいて、それぞれに悩みや困难を抱えていることが分かりました。そういった人々に食べる喜びを感じて顶けたら开発した甲斐があります。
さらに、この商品は包装を开けてレンジで1分间温めるだけで食べられるという、手軽さも魅力のひとつです。仕事をしながら在宅介护をしている方など、介护や食事作りに时间をかけることが难しい方々のニーズも非常に高いことが分かりました。

写真 商品「らくらく食パン」

公司で研究することと公的机関で研究すること

公司での研究と学术机関でのアカデミックな研究、どちらもそれぞれの面白さがあると思います。これまで4つの研究所に所属し、それぞれ异なるテーマで研究を行ってきましたが、転职ごとに研究分野が変わることへの抵抗や戸惑いはあまりありませんでした。もともと学部卒で公司に就职したので、自分の専门分野が确立していたわけでもありませんでした。
初职が公司の研究所でしたので、常にその时々で优先顺位を判断するという习惯が身につきました。ビール研究所という商品に直结する部署で、商品の発売や品质向上など优先顺位がはっきりしていたので、その判断に従って、全体で时间や人のやりくりをして研究を进めていく、それが当たり前という风に认识していました。
転职すると、研究テーマが変わり必要な知识も変わりますが、职场や研究テーマが変わることをネガティブに捉えず、自分の仕事の幅が広がると捉えれば前向きな気持ちで新しい研究テーマに取り组めるのではないでしょうか。
公司と研究机関での研究について、どちらが面白いとかやりがいがあるとは一概に言えませんが、公司での研究では、商品を购入して下さったお客様などの直接的な反応を受け取ることができ、少しでも社会に贡献できたという実感を持つことができます。

女性研究者としての思い

やはり、仕事と家事?育児を両立するためには、周りの理解や支えもどこかでは必要になってくるかと思います。私が大学を卒业した时は、男女雇用机会均等法が制定された时期で、研究者であれば女性も深夜労働が可能になった时期でした。
出产?育児などの时期は、仕事と両立していくためには谁かにそのしわ寄せが行ってしまうこともあるかもしれません。例えば、それは职场の上司や同僚だったり、家族や子供だったりする可能性もあります。私も、一旦始めると3时间は手が离せないという実験を始めたときに、子供の保育园から电话が掛かってきて困った、というようなこともありました。ただ、家族の支えもあり、保育所への送り迎えなど协力してもらいながら、子供が小さい时期を何とか乗り越えることができました。
また、家事や育児と両立している女性は时间の使い方が上手な人が多いように感じます。ここまでやったら今日は终わりにする、というように、メリハリをつけること、家族全员のスケジュールや体调を考えながら家事も仕事も段取りしていくことも大切だと思います。
女性研究者にとってキャリアアップの时期と、出产や育児などで研究が十分に出来ないという时期が重なることもあると思います。人生は思い通りに行かないことのほうが多いですが、自分の人生设计を考えるときに、出产?育児を何歳くらいに想定するのか、ということを少し考えておくとよいかもしれません。

今后の展望―パンの机能性の研究―

私は现在、介护用食パンのようなヘルスケアの研究开発と并行して、食品の栄养机能性の研究にも取り组んでいます。&苍产蝉辫;
パンには、もともと使われる原材料が持っているビタミンやミネラル、また抗酸化能などの栄养机能性があります。机能性成分を摂取するだけならサプリメントを饮むという选択肢もありますが、パンは主食として召し上がって顶く食品なので、毎日の食事の中で美味しく召し上がっていただきながら、かつ健康になるパンを开発したいと思って研究しています。
介护用食パンは、嚥下などに何らかの问题を抱えた人に向けた商品ですが、今后は健康な人にもっと健康な生活を送ってもらえるような机能性を备えたパンの开発を行いたいと思っています。
现在は、少しずつ基础研究を进めながら、学会発表や论文を出すことで基础研究の成果をお客様に知っていただくという情报発信を中心に行っています。基础研究は时间がかかりますので、今日研究を始めて明日商品が発売できることはありませんが、公司の基干技术として、パンをお客様に长くより健康になるために食べていただくことに繋がる研究を続けていきたいと思っています。この研究を基础研究で终わらせるのではなく、今后は商品につなげていきたいと思います。
 

写真 研究室での庄林さん

ドクターの学生に求められる能力

自分の専门分野を掘り下げていくのも大切なことですが、周りと连携して情报を上手くインプットして、その成果を周囲に展开していくという能力も必要です。自分の中で完结するのではなくて出来るだけ広く社会とも繋がって、その中で自分の仕事を深めていく、完成度を上げていくという能力がほしいと思います。
研究部门に所属しているとはいえ、自分の殻の中に闭じこもっていたら、いくら良い研究をしていてもそれがなかなか世の中の役に立つことはありません。世の中でどういうことが起こっているのか、何が求められているのかを的确に把握して、一番良いソリューションが提案できれば、その人の存在価値は高くなるのではないでしょうか。柔软に物事に取り组む姿势に、一段高い完成度でアウトプットする専门性が加われば、鬼に金棒ではないでしょうか。
もちろん学部生とは违い、博士号を取得している人には、研究推进力、英语力を含めた情报収集力、周囲との调整能力なども期待しています。もし公司に就职するのであれば、その中で自分の能力を生かせる仕事を把握し、今やるべき仕事は何かを正しく判断できれば、间违いなく博士号の取得を通じて磨いてきた能力はプラスの方に発挥されると思います。
时に公司では、自分の希望する会社の研究所に入っても、その事业领域がなくなることもあります。その时どうするか?自分の専门分野を贯くために転职するか、そこに残って自分をどう活かすか、2つ考えられます。どちらの道を选んでも、今自分は何をすべきかということを考えて、ある程度周囲に顺応することは重要ですし、それができる人は周りからも大切にして貰え、存在価値も上がると思います。相互に认め合い、切磋琢磨して成长していける良い循环を生み出す中心人物になってほしいですね。

博士课程进学を考える学生へのメッセージ―チャンスの女神には前髪しかない!―

チャンスがあるならどんどんチャレンジすると良いでしょう。
私が博士号に挑戦した时には、すでに子供もいたのですごく迷いました。やはりあきらめようかと考えている时に、同じように博士号を目指してがんばっている友人に「チャンスの女神には前髪しかない」って言われたんです。チャンスが目の前を通り过ぎた后に、「あっ、今のがチャンスだったんだ!」と思って后ろから掴もうと思っても、チャンスの女神には前髪しかないから后ろからは掴むことはできないということです。この言叶に背中を押され、私にとっては最后のチャンスだ、やるしかないと腹をくくりました。
皆さんも、チャレンジできる环境があって、やってみたいと思うなら、どんどんチャレンジした方が良いと思います。后で、あの时がチャンスだったのかも、と思っても、その时に戻ることはできないし、同じようなチャンスが再び巡ってくる保証はどこにもありません。自分がやりたいと思ってそれが许される环境なら、どんどチャレンジしたら良いと思います。
ただし、チャンスの女神が来たときに自分のものにできるように、日顷からしっかり準备をしておいてください。目の前の小さなチャンスを大切にしている人には、きっと大きなチャンスが巡ってくると思います。
 

株式会社アンデルセン?パン生活文化研究所贬笔: 

取材者:二宮 舞子(総合科学研究科 総合科学専攻 社会環境領域 博士課程前期1年)
 


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