
取材日 2015年5月18日
第26回研究室訪問は、総合科学研究科の博士課程後期(D)2年、渡邊 大輝(わたなべ だいき)さんが取材に応じてくれました。筋肉の疲労メカニズムについて研究されている渡邊さんは大学生の時はクロスカントリースキーで国体に出場された経験もある肉体派のD。しかし、研究面では自分で実験器具を作成したり、数ミクロンレベルの筋線維の処理をピンセットで行ったりと多彩な才能をお持ちになっています。そんな渡邊さんにDの魅力についてお聞きしました。
研究は始めたきっかけは?
大学は他大学で生物を専攻していたのですが、何より热中していたのがクロスカントリースキーでした。クロスカントリースキーはアップダウンのある雪のコースをスキーで进み、速さを竞う竞技です。スキーポールを雪に突き、スキーを速く滑走させるための筋力とそれを维持するための持久力が同时に必要となるスポーツです。そのため、どうやったら相反する能力(筋力と持久力)を高めるトレーニングができるか考える毎日でした。このことと生理学を同时期に勉强した结果、スポーツと生理学をつなげることができるような研究をしたいなと思うようになり、现在の研究室を见つけて受験しました。
研究内容はどのようなものですか?
ヒトの体を動かしている筋肉の疲労メカニズムの解明を行っています。「筋肉の疲労」とは筋肉の収縮力が低下している状態のことを言います。筋を電気刺激によって収縮させると最大以下の収縮力を示す低頻度領域と最大収縮力を示 す高頻度領域に分けられます。日常的な活動において、筋肉は最大以下の、すなわち低頻度領域の、収縮を行っています。この低頻度領域の収縮力は、運動後、長期にわたって回復しないことが知られています。低頻度の筋肉の疲労の原因として、生体外で行った研究の結果から2つ説が提唱されていました。1つ目は収縮に必要なカルシウムイオンが十分に放出されなくなるという説、2つ目はカルシウムイオンを感知するメカニズムが鈍るという説です。
低频度の疲労のほうが日常生活と密接に関わるため、解明が求められている研究课题でしたがこれまで実験方法の确立の难しさのためになかなかされていませんでした。低频度の筋肉の疲労を见るためには筋肉に掛ける力などをしっかりとコントロールしなければなりません。さらにこれまでの研究は筋肉を生体から取り出した状态で刺激を与えていたので、生体内と异なる环境で疲労のメカニズムを検讨していました。
生体内でのメカニズムを解明するために、私はラットを使った新しい実験を确立しました。この実験ではラットの筋肉を切り出さずに刺激を加えることができます。この结果、低频度の筋肉の疲労は2つの説どちらでも制御されていることが世界で初めて証明することができました。また、疲労回復の时期によって原因が异なることがわかりました。
先生の指导方针や研究室の特色は?
うちの研究室の一番の特色は新しい実験器具は可能なかぎり自分で作ってみるということです。ピンセットをヤスリで削ったり、顕微镜を窜轴方向に动かす台を车のジャッキを利用して作ってみたりしています。当然必要なものは买いますが先生に相谈して作成できそうなものは基本的に作成してみます。自分で作ることで実験器具の原理をしっかりと理解することができますし、直すこともできます。このおかげでどこの研究室に行っても自分の実験を続けることができる力が身に付くと思います。

今后のご自身の展望
自分自身は今后海外に行って、実験技术を磨きたいと思っています。今やっている単一筋线维の测定はとても难しい测定方法です。筋线维一本をピンセットで取り出し、数μ尘の厚さの皮だけを切り取り、线维の収缩力の変化を観察します。とても集中力が必要な実験で、失败することも多々あります。世界中でもこの研究手法をされている方はほとんどいません。そのため、この研究手法が発达しているオーストラリアにいって実験のコツを学ぶだけでなく、この手法の発展性を理解し、生理学とスポーツ学をつなげれるような研究をしていきたいです。
これから顿を目指す人へのメッセージ
私は修士课程に进むときに9割がた顿に进むことを考えていました。それは私がこれまでスキーをした経験によって「本気で、真剣に取り组むからこそ、その物の本质的な面白さがわかることができる」ということを実感していたからです。そのため、研究をしたいと思ったならとことんやってみようと思いました。确かに経済面などいろいろな悩みもあると思いますが、中途半端なことでは本质の面白さはわからないと私は思っています。顿の期间は时间的に余裕があり、自分としっかりと向かい合えることが可能なため真剣に研究に取り组むことができます。顿は自分の能力(论理的思考力やプレゼンテーション能力など)をトレーニングする场としてとても素晴らしいところだと思います。中途半端にならず、絶対にやり通すという心をもってぜひ进学してください。

和田研究室贬笔()
取材者:岡田 佳那子(理学研究科生物化学専攻博士課程後期3年)